ファッションショーから始まった恋愛

2018/10/22

高校のとき、俺は放送部だった。
放送部というのは、コンクールを別にすれば、毎日の仕事はほとんど連絡放送と、学校行事が中心だ。
体育祭とか、学校祭以外に、うちの学校はちょっと珍しいと思うが、服飾デザインのコースがあり、その発表会があった。
服飾デザインコース「T組」は、今は男子生徒もいるようだが、当時は女子生徒だけ。
校舎も別で、ちょっと「女の園」という感じで、おしゃれな女の子が集まっており、俺たちもてない普通科生徒には憧れの対象だった。
部長をしていた俺が部員への連絡でT組に行ったりすると、きれいなおねいさんに一斉に注目され、どきどきしたものだった。
T組の発表会「ファッションショー」は、生徒がデザイン/縫製やショーの運営、モデルまで全部やる、結構本格的な行事で、放送部が音響、演劇部が照明を担当し、半年も前から打ち合わせが始まっていたが、スタッフも全員女子部員で、俺たちには関係ない行事だった。
ところがこの年は例外的に女子部員が少なく、3年の先輩の推薦入試が重なったりして、俺が顧問と調整室の番をする事になった。
もちろん、舞台袖は女子部員の仕事。
チーフは副部長のよっこが担当する事になった。
よっこは同じ中学の出身で、気心のしれた奴だったので、普段はアナウンス担当だったが、ステージ音響のノウハウをしっかりと事前に叩き込んでおいた(つもりだった)。
リハ前に、俺と顧問は2階の調整室に籠った。
顧問は、「おい潤、トイレには行っとけ。これからリハ終わるまで、調整室を出られないからな。」と言った。
調整室から階段を下りると、すぐ舞台下手の袖に出るが、楽屋などという立派なものは体育館にはないので、モデルはここで着替える訳である。
調整室の仕事は、音量の調節だけで、実際のMCや音出しは、舞台でやる。
カセットデッキと簡易ミキサーを接続して、BGMはそこで変えて行くので、調整室は暇だった。
リハが始まると、顧問の様子がおかしかった。
なんかそわそわして下手から舞台を見下ろす窓に張り付いている。
何気なく見下ろすと、袖で着替えているT組のモデルたちが見えているのである。
秒刻みで衣装を換えていく彼女たちに、調整室を見上げる余裕はなく、どんどん下着になって行く。
「このスケベ教師。」と思ったが、自制心とプロ意識で、俺はミキサー前に座って、「先生、このつまみは何の働きをするんですか?」などと、わざとらしく呼んでやった。
突然音楽が途切れ、インターフォンがなった。
よっこからだ。
「潤、大変。音が出ない。どうしよう。ああ、もう判らない。とにかく降りて来てよ。お願い。」
「え、それはまずいだろ・・・。」ところが、顧問が、「どうした、先生見て来ようか。」と立ち上がったので、「いやいいです。俺行きます。」と予備のデッキと工具箱をつかんで階段を降りた。
奴にこれ以上いい思いはさせない原因はすぐわかった。
カセットデッキがテープを巻き込んでいた。
T組が練習で使い慣れたラジカセを使いたいと言ったので、それを使ったのが裏目にでたのだ。
予備のデッキをつなぎ、練習用のテープを再生して、音が出る事を確認してほっとした途端、ついさっきの光景がフラッシュバックして心臓がどきどき、汗が出て来た。
音声端子のある上手袖まで、約20mの道のりは、まさに極楽。
下着姿、パンイチブライチの美少女(モデルはT組各学年からとびきりが約30人選ばれる)があちこちに、と言えば聞こえがいいが、上下の袖は大混雑で着替中のモデルの間を、「すみません、すみません」とかきわけかきわけ。
しかもちょうど夏服の部だったらしく、上はブラもなしが5人ぐらいいた。
美貌とスタイルで選び抜いたモデルの子のおっぱいが10個・・・。
極楽だ。
と毎日思い返して・・たのは後日の事、そのときは、プロ意識の塊で夢中だった。
泣きながらお礼をいうT組のスタッフを後にして、俺はいい気持ちで走って調整室に戻った。
下手の袖を抜け、階段に登ろうとした矢先、横から誰かが思い切りぶつかった。
俺はかろうじて転ばなかったが、その子は尻餅をついた。
「痛ぁ、あ、ごめんなさい。」その子は立ち上がろうとしたが、大きな衣装をいくつか持っているらしく、立ち上がれなかった。
「いや、俺がぼっとしてたからで・・・」とばそぼそ答え、とりあえず衣装を持ってあげようと、手を伸ばした。
無意識に彼女も衣装を渡した。
ようやく立ち上がったその子を見て、俺は一瞬固まった。
上に何も着てなかった・・・。
衣装を渡すまで、10秒位だったろうか。
俺は真っ正面からただ彼女の胸だけをじっと見つめてしまった。
ちょうどいい大きさというのは卑怯な表現だが、それしか言い様がない。
すこし外向きで、真っ白。
美術室の大理石のレプリカ裸像のような美しい胸。
彼女はみるみる真っ赤になって、「あ、急ぐので。」とかつぶやいて、衣装をひったくる様にして、走り去って行った。
それから、ファッションショーは無事に終わった。
その後も移動でT組の子達とは、すれ違った。
スタッフの子たちは、「潤君元気ぃ?」とか声掛けてくれる様になったが、彼女は真っ赤にうつむいて通り過ぎていった。
でも口元は微笑えんで居た様に、思う。
よっこに相談した。
奴とは本当に仲良しで、よく見ると結構いい女なんだが、一年の時、軽く告ろうと思っていた矢先、反対によっこからサッカー部の奴に告られ、どうしようかと思っていると相談されたと言うことがあった。
それから彼の事聞かされたり、こっちのもてないとこ心配されたりしていた。
なにしろ挨拶が、「おはよう、彼氏が好きでも、簡単にパンツ脱いじゃ駄目ダゾ。」
「わかった。じゃ脱がずに横から(こらこら)」という間柄だったので、彼女との出会いがおっぱいからだったことも含めて、相談出来たのだった。
「ふーん。でも嫌いだったら、胸見やがった奴は絶対許せんし、廊下であっても、無視するか、逃げるよ。そりゃゾッコンだね。」と無責任にけしかけられたが、「でも、これで俺からアクションすれば、ストーカーだよ。」と言うと、よっこはニヤニヤしていた。
でも何か仕掛けたらしい。
ある日下駄箱に手紙があり、俺は放課後、近くの公園で彼女と会った。
俺は、失礼にもじろじろ見た事を詫び、でもあれから君の事が忘られないと正直に言った。
彼女は、外見だけでもそれだけ好きになってくれて嬉しい。
普通とは逆だけど、これから中身も好きになってくれたら嬉しい。
と言う様な事を、大分時間をかけて話してくれた。
彼女はマイカというちょっと珍しい名前で、父親が鉱物採集が趣味なので、雲母の英名から取ったそうだ。
名前の通りキラキラした子で、遊びに行って一緒にあるくと、「うっそー。」
「なんで?」という声が聞こえる程だが(俺はみじめ)よっこと違って、あまりおしゃべりではなかった。
何ヶ月かしてキスする仲になってから、ふと「あの時ぶつかったのは、まさかわざとじゃないよね?」と聞いたら、いつもの様に東洋的な微笑を浮かべて、「私、よっことは、小学校の時から友達だから。」とつぶやいた。
えっ!?俺様は、はめられましたか?ちょっと女が恐ろしく感じた(俺=孫悟空、女=お釈迦様?)が、ま、はめられたとしてもいいやと思った。
そんなことより、文字通り裸でぶつかって来たマイカの情熱が、いとおしくてたまらなかった。
(とりあえず終了)マイカは、街中が嫌いな子だった。
つきあってた間、繁華街に行った覚えはほとんどない。
2度程、映画を見に行っただけで、買い物につきあわされたり、「あそこの何とかが食べたい。」なんていう事も無縁だった。
T組には珍しく、普段着も派手ではなく、なんかふわふわしたものを着ていた印象が強い。
制服はもとより、デートの間もスカート姿しか見た事がない。
俺は178cmあるのだが、彼女は自称155cmで、俺と歩くと肩位までしかなかった。
「今度、ここ行こうよ。」と、彼女は近郊のハイキングコースとか、景色のいい観光地に行きたがった。
まあひと気の少ないとこでデートが多かったから、キスのチャンスは意外と早く来たわけだ。
2回目のデートの時、彼女の妙な癖に気がついた。
やたらにガムをかむのだ。
くちゃくちゃ音をたててガムをかむのは嫌だが、彼女は「もぐもぐ」と言う感じで、リスかなんかの様で可愛かった。
でも、ガムをかむのは口寂しいからで、実は普段煙草を吸っているのではないかと、つい疑ってしまった。
当時たばこを吸うのは結構普通で、クラスでも1/3位の男子が親に隠れて吸っていたと思う。
女子も結構吸っていた。
このことについて、ゆっこに相談してみた。
「ばかだね潤は。女の子がガムかむって、どういう意味か、わかんないの?」
「なんだそれ。ガムに何の意味があるんだよ。」なんだか判らんうちに、次のデートがやって来た。
電車を3回乗り換えて(最後のは「よくこんな電車が残ってたなあ」というような、古い車両だった)、山奥のダム湖にデートに行った。
湖には貸しボートがあって、マイカの作ってくれた弁当を食べてから、午後一杯、ボートに乗って遊んでいた。
ボートは揺れると足が開くので、ミニスカートのマイカの足の間が気になってしかたなかった。
縞か・・・。
「潤君もガムかむ?」
「うん、ありがと。」グリーンガムだった。
2人はさすがに話題も尽きてしまい、ただ黙ってガムをかんでいた。
突然マイカが言った。

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