貧乏でも健気な彼女

2018/03/28

これまでの子に比べれば大して貧乏ではないかも知れませんが、このスレやまとめサイトに目を通しているうちに、ふと思い出した女の子がいたので、想い出を書きます。
小6に進級してすぐの席替えで隣の席になったMちゃん。
それまで1度も同じクラスになったことがなかったので、1学年2クラスというあまり大きくない学校だったにもかかわらず、話したことがなく、印象の薄い子でした。
Mちゃんは背が低くて大人しく、あまり喋らず、休み時間は唯一の友達であるYちゃんといつも一緒にいました。
そんなMちゃんの持ち物や服装が気になりはじめたのは、6年になって2週間くらい
経った頃だと記憶しています。
最初は鉛筆や消しゴムがだいぶ短くなったり小さくなっても交換する様子がなかったり
書道道具や絵の具セットが学校で共同購入したものではないことなどが気になりました。
書道道具や絵の具セットは兄・姉がいる家庭は使い回しをしている児童も多かったのですが
彼女のそれは明らかに他人の氏名を消して再利用している物でしたし、絵の具やクレパスも
一部の色が欠けていました。
服装も継ぎはぎが目立つトレーナーやスカート、古そうなジャンパーと思春期の女の子が着るにはみすぼらしく思えるものをよく着ていました
(ただし毎日洗濯はしているようでした)。
ノートも「家庭科」
「保健」など授業数が少なく、1年間ではノートを使い切れない科目に関しては
前年度や前々年度のものをそのまま使っていました。
一番長期間使っていたのは2年生から使い続けていた「音楽」のノートで 背表紙の部分はセロテープで何重にも補強が施していたのを覚えています。
僕も内向的な性格だったので、席替えをしてしばらくの間はお互いぎこちない関係が続いたと思いますが、次第に打ち解け、だんだんと会話をするようにもなりました。
Mちゃん算数が苦手で書道や美術が得意、僕はその逆だったので、授業中わからないところを
教えてあげたり、教えて貰ったりといった関係が徐々に出来上がって来ました
(6年にもなって、男女が仲良くしていると必ずといって良いほど周囲から冷やかされるものですが
お互い地味な存在だったためか、何も言われませんでした)。
5月の連休明け頃だったと思いますが、Yちゃんが学校を休みました。
唯一の友達がいないMちゃんはとても淋しそうで、周囲の女子がグループを作って窓際でお喋りをしたり、外あそびに行ったりする中、休み時間は席に座ってじっと
本を読んでいました。
その姿を見ると、言いようもない感情が生まれて、僕まで淋しくなってしまったのを覚えています。
当時のクラスは比較的落ち着いていて、暴力や無視などのいじめは僕が知る限り
ありませんでしたが、「Mちゃん=暗い子、喋らない子」という1年生からの
イメージが定着してしまっているためか、何となく周囲とは溝が出来ており
事務的な会話以外をするクラスメイトはYちゃんを除いてはほとんどいませんでした。
翌日、風邪が治ったYちゃんと話をしているMちゃんはとても楽しそうで、穏やかにニコニコしていました。
Mちゃんに惹かれるようになってしばらくたった5月下旬、彼女と僕とに日直が回って来ました(僕のクラスでは隣席同士が日直を組んでいました)。
実際には4月にも日直が回ってきたのですが、まだその頃は全く打ち解けてなく
お互い気まずいまま過ごしてしまいました。
日直の日は土曜日で、5月だというのにとても暑い日だったのを覚えています。
帰りの会が終わり、誰もいなくなった教室で、掃除をしながら「きょうは暑いね」とか
「宿題がたくさん出て嫌だ」といった他愛のない話をしていました。
掃除が終わり、どちらが言い出した訳ではありませんが、何となく2人で帰ることになり
歩きながら話しているうちに、僕の家とMちゃんの家とは近所(歩いて5分程度の距離)
であることがわかりました。
「こんなに暑いのに、家には扇風機しかないから、今日みたいな日は蒸し風呂なんだよ。
去年(93年)の夏は涼しかったから良かったけど」というMちゃんを可哀想に思い、僕は「もし良かったら、家寄ってく?この時間は誰もいないから気を遣うことはないよ」
と言いました。
僕の家は自営業でしたが、自宅と店舗が別々だったので、日曜以外は昼間家に誰もいませんでした。
Mちゃんは少し迷っていましたが、僕の家に来ることになりました。
家に着いてクーラーの電源を入れ、ジュース(カルピスだったかも?)とお菓子
を用意して色々な話をしたのを覚えています。
彼女の家は小さな工場をやっているが、経営はとても苦しいこと旅行やプールにも行きたいが、長いこと連れて行って貰えないこと
冬場はお風呂が2日に1回になる(こともある)こと、洋服もあまり買って貰えず親戚からのお下がりに頼っていること、両親は友達の少ない私のことを
心配していること、でも一人っ子の私をとても可愛がってくれることetc・・・
普段のMちゃんからは想像できないくらいお喋りでしたが、やはりMちゃんの家庭の経済状況が良くないことがハッキリとわかり、なんだか辛かったのを覚えています。
でもそれ以上に辛かったのは、誰を責めるわけでもなく、そんなことを健気に
笑いながら話す彼女の姿でした。
その日の彼女の服装は、色あせがはじまったTシャツにいつもの古いスカート
(本人は気づいていないようでしたが)穴の開いた靴下という格好でそんな話を聞いた直後だっただけに、なお一層哀れさが募りました。
しばらくすると、彼女が「暑いから」と言いながら靴下を脱ぎましたが
多分穴が開いているのに気づいたから脱いだのだと思います。
でも気を取り直して、テレビを見たり宿題を教えあったりしているうちに
午後5時くらいになり、僕がMちゃんの家まで送りました。
彼女は何度も「ありがとう」と言い、また来ても良いかと尋ねられたので
僕はいつでも来て良いよと言いその日は別れました。

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