ストーカーになった元カノとの終末
2018/01/25
あの夜、最後に見たYの、悲しそうでどこか決意めいたものを感じさせる
その後姿が忘れられないでいた。
俺は東急ハンズで小さなアーミーナイフを買い、常に携帯するようにした。
それは、もしもNや俺の周囲に危害が及びそうになったら俺は躊躇せずにYを刺す、
そういう決意の表れだった。
例え自分がどうなろうとも、Nだけは失いたくなかった。
あの夜の出来事は俺をとことん追い詰め、こんなことばかり考えるまでに精神は
衰弱していた。
NはNで不安だったようだ。
自分自身もかなり参っているというのに、
頻繁に電話を掛けてきては俺の心配ばかりしていた。
見かねた俺はある日、Nに言ってしまった。
…辛かったら、別れてもいいんだよ?
するとNは涙を流し「なんでそんな事を言うの!?」とものすごい勢いで俺を責めた。
「ごめん…ごめん…」と、平謝りするしかなかった。
やがて、Yから何の音沙汰も無いまま、俺たちは4年生になった。
お互い就活を終え、あとは卒業するだけだった。
バイトで貯めた貯金を崩して、ふたりで卒業旅行にでかけたりもした。
お互い初めての海外旅行だったが、Nは英語をかなり喋れたので
苦労することはなかった。
向こうのホテルで、俺たちはけじめをつける意味でYの事を語り合った。
それまではずっと、ふたりともなんとなく話題にすることを避けてきていた。
…ストーカーっていうのは、みんなドラマみたいな行動に出るものだと思っていたよ。
だから、俺とYの関係ががあんなことになって、Nや周囲の人に危害が
加わるんじゃないかって、不安だった。
…でも、Yからはもう長いこと音沙汰が無いよね。
もしかしたら、
Yはストーカーっていうよりも、単に不器用なだけだったのかもって思うんだ。
多分、ずっと○○のことが好きだったんだよ。
それをうまく表現できなかっただけかもね。
…当時は責任を負うのが怖くて逃げたつもりだったけど、結局はこういう形で
責任を取ることになったな。
…うん。
でも○○はもうこれだけ悩んだんだし、きっとYも許してくれるよ。
やがて前期が終わった。
旅行から帰った後は、俺もNも落ち着きを取り戻していた。
…そして
その日、俺はサークルの飲み会に参加していた。
後輩達と一緒に、おいしい物を食べ、おいしいお酒を飲んで、語り合った。
「○○さん、ちょっと早いけど、お誕生日おめでとうございまーす!」
…そうだ、明日は俺の誕生日だ。
思えば誕生日を安心して迎えられるのも、ひさしぶりだ。
…日付がかわる頃にはメールがくるだろうな。
案の定、日付が変わった瞬間に携帯電話が鳴った。
そして、俺は、物語がまだ終っていないことを知った…。