憧れの従姉 ~佐藤寛子~

2017/05/06

憧れの従姉 ~佐藤寛子~
学校を出た時、空はずっしりと重い暗雲の塊に覆われていた。さっきまで雲ひとつなく、夏一番の陽光が照りつけていたというのに、この急激な天候の変化はどうしたのだろう。
なんだか雨がきそうだな…。
空を見上げながらバス停へ向かおうとした雅樹の頬に、ぽつりと雫が当たった。
あれれ、もう降ってきやがった…。
急いで商店の軒下に飛び込み、鞄から折畳みの傘を取り出した。その途端、大粒の雨がものすごい勢いで落ちてきた。
雨粒は、そのまま舗道のアスファルトにぶち当たると、激しい音を立てて大きく四方に跳ねる。さっきまで真夏の陽射しをいっぱいに受け、溶けて柔らかくなっていたアスファルトは、瞬く間に一面が水溜まりとなり、むっとするほどの湯気をあげていた。
商店の軒下から歩き出そうとした雅樹は、その時、激しい雨の中を、傘もささずに走ってくる人影を目にして立ち止まった。近付いてくるにつれ、人影ははっきりと像を結び、雅樹の目に華やかな女性であるとわかった。
白いブラウスに水色のタイトスカートをはいている。ハンドバッグを傘代わりに頭上にあてがっているのだが、豪雨を相手には殆ど効果はない。その証拠に、ブラウスもスカートもぐっしょりと濡れそぼち、すらりとした身体にぴったりと貼り付き、走るのをひどく妨げている。
おまけに踵の高いハイヒールを履いているものだから、足下がぐらぐらして、今にも転びそうなほどだ。
ひやひやしながら危なっかしい姿を眺めていた雅樹は、女が近付いてくるにつれ、見覚えがあるような気がしてきた。目を凝らし、通り過ぎようとする相手を追って振り返った途端、雅樹は鞄を落としそうになった。
「お姉ちゃん?」
雅樹の呼びかけに、女が驚いたように立ち止まり、いぶかしそうに振り返った。
目鼻立ちのくっきりした美しい顔を間近に見て、雅樹は自分の勘が間違っていなかった事を知った。やっぱり従姉の寛子姉さんだったのだ。
「雅樹君?」
それまで細める様にして雅樹を見つめていた女の目が、驚きで丸く見開かれた。
「…本当に、雅樹君なの?」
そう言ったきり、寛子は口元に手を当てて黙り込んでしまった。言葉がつまって出て来ない様子に、雅樹もたちまちジーンと胸が熱くなってきた。
考えてみれば、寛子が雅樹のことをすぐにわからなかったのも無理はないのだ。なにしろ、2人が会うのは3年ぶりなのだから。当時、中学一年生だった雅樹も、もう高校生になっていた。
対する従姉、寛子の方は、まるで変わっていなかった。あの頃から従姉はよく雑誌のグラビアとして世間を賑わして、今ではテレビでもよく見かける様になった。だが、黒い髪も、綺麗な瞳も、ずっと昔から覚えている従姉のままだ。
子供の頃から、こんなにも綺麗な従姉がいることが得意でたまらなかった。盆や正月に親戚が集まる時に寛子を見るだけで、心がときめいたものだった。
「信じられないわ。こんなに大きくなって…見違えちゃったわ。ねえ、もっとよく顔を見せてくれる?」
寛子を見ながら甘い感傷に浸りかけていた雅樹は、従姉の全身がずぶ濡れになっているのを目にとめ、ハッと我にかえった。
いけない。お姉ちゃん、ずっと雨に打たれたままじゃないか…。
あわてて傘をさしかける。寛子が嬉しそうに微笑みながら入ってくる。途端に雅樹は、濡れた従姉の身体から、嗅いだことのないような馨しい肉香が立ちのぼってくるのに慌てた。
それは、西洋梨を成熟させたような、甘酸っぱいとしか表現のしようのない香りだった。果樹園の香りよりはかなり生々しく、動物的な雰囲気を帯びているというのが的確かもしれない。
「本当に大きくなったのね。ほら、私が肩までしかないわ。前には私の方が背が高かったのに」
言いながら寛子は、雅樹の背の高さを測ろうとでもするかの様に、背伸びをして頭の上へと手を伸ばしてきた。その拍子に、ブラウスを大きく突き上げる胸の膨らみが雅樹の肘に当たり、スローモーションのようにゆっくりとつぶれていった。
思いがけない成り行きに、雅樹の頭は痺れた。瞬時に身体が硬直し、乳房が押し付けられている間、息をすることさえもままならなかった。
ほんの一瞬のことなのに、ムッチリとした膨らみの当たっていた肘が、今なお疼いているかの様に、その感触が残っていた。
おまけに、従姉は相変わらず無邪気に雅樹を見上げているものだから、胸の膨らみがなおもグイッと突き出されている。ぐっしょりと雨を含んだ薄い純白のブラウスが、水着の様にぴったりと貼り付き、大人の乳房をくっきりと浮き彫りにしているのだ。
白いブラウスの下から透けて見える、可愛らしい花柄模様の三角形のカップ。荒い息遣いとともにゆっくりと上下するカップは、従姉の豊かな胸を隠すにはあまりにも小さすぎて、そこから生身の乳房が飛び出すのではないかという妄想さえかきたてる。
雅樹は思わず涙がこぼれそうになった。魅力的な乳房が、目の前でふるふると柔らかそうに揺れているのに、手を出すこともできないのだ。
「どうしたの?ぼうっとして…?」
いきなり声をかけられ、雅樹はあわてた。見事な胸に見惚れていたのがばれたのかと、本気で心配になったほどだ。
「な、なんでもないよ…そうだ、お姉ちゃん、送っていくよ」
動揺を見透かされるのが恐くて、雅樹はわざとらしくそっぽを向くと、そのまま歩き出した。
「ウフフ…変な雅樹君。ありがとう、助かるわ」
明るく笑う従姉の屈託のない声は、まるっきり昔のままだ。懐かしくてたまらないはずなのに、淫らでいやらしい感情を抱いてしまう自分が恥ずかしくもある。すでにズボンの前は痛いほど大きく硬く膨らんでいる。
それが知れたら、お姉ちゃんはきっと僕を軽蔑するに違いない…。
歩いている間中も、雅樹は寛子の身体から意識をそらすことができなかった。寛子に硬くなった股間を見られたくなくて、片手をポケットに突っ込み、半歩前を歩いた。その為、寛子がいきなり立ち止まって肩を掴まれた時、後ろにひっくりかえりそうになった。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
いぶかる雅樹に、寛子は笑いながら
「だって、ここが私の住んでるマンションなんだもの」
と告げた。
もう着いたのか。じゃあ、久しぶりに会えたのに、お姉ちゃんとはここでお別れしなければいけないんだ…。
雅樹は、雨に濡れた十数階建てのビルを見上げながら、思わず落胆の溜め息をつきそうになった。
「ねえ、雅樹君。せっかく久しぶりに会ったんだから、ちょっとうちに寄っていかない?私、ゆっくり雅樹君とお話がしたいわ」
そう寛子がやさしく誘いかけてくれると、雅樹は一も二もなく頷いた。
それから雅樹はスキップせんばかりに従姉の後ろからエレベーターに乗り込んだ。
雅樹は寛子の部屋に入ると、寛子に勧められる前に壁際のソファに座り込んだ。さっきから痛いほど硬くなって、ズボンを三角形に押し上げている股間の高まりを、一刻も早く従姉の目から隠したかったのだ。
「ありがとう、こんなところまで送ってきてもらって」
寛子が大きなバスタオルで艶やかな黒髪をぬぐいながら、グレープフルーツジュースを入れたグラスを差し出した。雅樹はよく冷えたグラスを、股間をさりげなく隠したまま、手だけ伸ばして受け取った。
「悪いけど私、先にシャワーを浴びてくるわね。身体の芯までぐっしょり濡れちゃったわ…ほら」
寛子は優美な仕草で胸の谷間をつまんで持ち上げた。すると、白いブラウスがいっそうぴったりと胸乳に貼り付き、膨らみの下を支えるまろやかなスロープがくっきりと浮き彫りになる。その重たげな双つの肉丘に、雅樹は呆然として頷くことしかできなかった。
やがて、寛子がバスルームへ入っていくのを見送ると、雅樹はフウッと溜め息をついて、冷たいジューずを一気に飲み干した。
最初は、美しい従姉の傍にいられるだけで切ないほど幸福だったのに、今は、獲物を前にして手を出せない肉食動物のような気分だ。やるせない疼きがきりきりと体を苛み、欲望ばかりがどんどん溜まっていく。どこかで発散しないとおかしくなってしまいそうだった。
雅樹が、今なおしっかりと脳裏に刻み込まれている従姉の艶かしい女体を反芻し、猛りきった分身をなだめる様にズボンの上から握った時だった。
微かだが、衣擦れの音がバスルームの方から聞こえてきた。その音の方へ目をやると、バスルームの手前、脱衣所のドアが3分の1程開いていた。
あのドアまで行けば、服を脱いでいるところ、いや、裸が見られるかもしれない…。
突然に浮かんできた淫らな考えに、雅樹は目がくらみそうになり、あわてて首を振った。従姉の裸を覗く…そんな破廉恥なことが、許されていいわけがない。
だが、どうしても意識はそちらの方を向いてしまう。そればかりか、お姉ちゃんは今どんな格好でいるのだろうと、淫らな妄想を巡らせてしまう始末だ。
支援
雅樹はもう、どうにも自分を押しとどめることができなかった。ドアの陰に佇み、しばらくためらった後、恐るおそる顔を出して様子を伺った。
だが、そこには、裸の従姉の姿はなかった。
お姉ちゃんは何処?
狐につままれたような気分のまま、足音を殺して脱衣所内に踏み入る。その時、シャワーの音が耳に届いた。雅樹は後頭部を鈍器で殴られた様なショックを受けた。ぐずぐずしているうちに、もう寛子は服を脱ぎ終わり、バスルームに入ってしまったのだ。
雅樹はフラフラと元居たリビングまで戻った。いつまでも躊躇っていないで、思い切って覗けば良かったと、後悔ばかりが込み上げてくる。
いや、まだ遅く…

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