セックス検定

2017/03/25

セックス検定なんてものが本当にあるって知ったのは結構最近のことだったりしない?その名の通りセックスの能力、相手を愉しませる能力を測る検定試験。
今ではほとんどの人がその存在を知っていると思うけど、実はオレもつい最近までそんなものがあるなんてちっとも知らなかったんだ。
去年の暮れに友人のシュンに連れられて一緒に受検するまではね。
去年の11月初めのこと。
オレはシュンと池袋をぶらぶら歩いていた。
あまりに外の寒さに池袋では結構評判のラーメン屋に入ったとき、シュンが不意に訊いてきた。
「セックス検定って知ってる?」オレは何のことだかさっぱりわからず、シュンには少し珍しい下ネタトークなのかと思った。
「何言ってんだ、つまんない冗談はやめろよ」オレは少し怒ったように言い、シュンをちらりと伺った。
その時オレがとても驚いたことにシュンは馬鹿みたいに真面目な顔をして、しばしの沈黙の後とオレの顔をみてニヤッと笑った。
「やっぱお前は知らないか」その態度にムッとしたオレはなんのことかとしばらくシュンを問いつめた。
そんなこんなでシュンから聞いたセックス検定の話を、実のところオレはしばらく信じなかった。
恥ずかしい半年前のオレ。
その時のシュンの話を簡単にまとめるとこんな感じ。
・セックス検定(通称セク検←せっけんのように聞こえる)は英検、漢検と似たようなもので、5級から始まり準2級、準1級を含め1級まである。
・男性用と女性用があり、最初は男性用しかなかったが、数年後に女性用も誕生した。
・ホストやAV男優はもちろん、現在では一般人にも求められるスキルになっている。
・1級の難易度は相当で、年に数人しか合格しない。
AV男優でも合格する人はほとんどいないし、1級なんてとれれば、この世界の女すべて手に入れたも同然だよ(byシュン)。
オレはその時受検しよう何て気はこれっぽっちもなかったし、まさか自分が受検することになるなんて今考えても信じられない。
恥ずかしいけど繰り返す。
オレは第一その検定の存在さえ信じていなかったんだ。
だって1週間もすると、そんな話はとっくに忘れてしまっていたぐらいだからね。
でも人間油断してちゃいけないよね。
今度は今付き合ってる加奈によって、オレは再び驚かされることになった。
シュンから話を聞いてから2週間ぐらいたっていただろうか。
オレはその週の日曜日いつものように一人暮らしの加奈のアパートに入り浸っていた。
これまたいつものように加奈と体を求め合った後、加奈は俺の耳元でそっと囁いた。
「ねぇマコト(オレの名前)、セックス検定って知ってる?」今まで生きていてこれ以上ドキッとしたことはなかったと思う。
オレは知らないというのがなぜか格好悪いことのように思え、平静を装いつつ「知ってるよ」と答えてしまった。
大きなミス。
加奈は少し驚いたような顔をしたように見えたが、すぐに独り言のように言った。
「あら、そうなの。・・・マコトだったら何級ぐらいになるのかな」オレは悪い予感がして、背中を冷たい汗がつたうのがわかった。
「知らないよ、そんなの。変なこと言うなよ」オレは加奈をさえぎるように言ったが、加奈はそれを無視するようにオレの顔を覗き込んで笑顔を見せた。
「ねぇ、マコト、受けてみてよ?」悪い予感が当たってしまった。
なんということだろう。
「嫌だよ、よしてくれよそんな。趣味の悪い」俺は激しく動揺し、心臓が加奈に聞こえるのではないかというほど大きな音を立てていた。
「そんなことないよ。私の友達の間で、今すごい話題なのよ。セックス検定。『私の彼、2級持ってるのよ』なん自慢してくる子もいてさ。
マコトだったらきっと合格できるよ。
ね、どんなものなのか、試しに受けてみてよ?」そういうと加奈は上目遣いでオレの顔を見上げた。
それならお前が最初に受けてみればいいだろうと言いたかったが、言えるはずがない。
加奈のその瞳に勝つことなんてできないのだ。
オレの心は揺り動かされ、その時にはもう受けなくてはならないだろうとあきらめていた。
弱いオレ。
その2週間後。
オレとシュンは都内の某大学の入り口前に立っていた。
そう、セックス検定を二人そろって受検するのだ。
大学を借りて試験が行われることは少なからず驚きだったが、セックス検定が社会的にも認められつつあることをうかがわせるものでもあった。
オレとシュンはそろって3級を受ける。
シュンが言うには、5級はほとんどの人が簡単に受かる程度のもので、受ける必要はないだろう。
シュンはオレに4級を勧め、オレも一度は最初だからとりあえず4級でという気になり申し込みそうになったが、シュンが3級を受けると聞き、怒りをもって3級に変更した。
オレはシュンよりはるかに遊んでいると思っていたし、そういうことにかけてはオレの方がシュンより上だと常々思っていた。
たまに合コンなんてやってもモテるのはいつもオレのほうだったし、何よりシュンがオレのことを下に見ていたのが許せなかった。
男にはプライドってもんがある。
オレが3級を受けると言うと、シュンはわかってないなあというように首をかしげて見せ、それが一層今日オレを奮い立たせることとなった。
シュンが受かってオレが落ちるなんてことは間違っても許されない。
オレとシュンは一言も言葉を交わさぬまま、一次試験の会場の教室に向かっていた。
大学は人であふれていた。
中には受検者でない人もいるだろうが、それでもこれだけの人が受けていると思うと本当にまだ信じられない気分だ。
教室に入ると、試験開始15分前ぐらいだったのだがすでに席はほとんど埋まっていた。
教室内は緊張した空気が漂い、みな目が真剣で「さあ、やってやるぞ」という気合に満ちた顔をしていた。
中には見るからにホストだったり、ヤクザっぽい人が見えたりと、英検などと受検者層が異なっているのは明らかだった。
地元の池袋で見かけるやつもたくさんいた。
そいつらに気づかれないように気をつけながら、オレは自分の受験番号の席についた。
席につくと、隣のメガネをかけた青年が正常位、伸張位、屈曲位、後方側臥位・・・などと聞いたこともない体位の名前を次から次へとぶつぶつ暗唱していた。
オレは驚いてあたりを見回したが、オレの他に誰も驚いている様子はない。
みな何かの本(セックスのハウツー本や、エロ本!)を読んだりして集中している。
シュンは耳にヘッドフォンを当てていた。
何を聴いているのかと尋ねると「AVの音声を録音したのを聴いているんだ。そうやって気持ちを高めるんだよ」俺は気合を入れてここにやってきたつもりだったが、まだまだ甘かったことを痛感させられた。
広い世界と大きな人間の欲望。
試験開始5分前、試験官の男性が教室に現れた。
AVの中で見たことがあるような気がしたが、気のせいだったかもしれない。
教室内は一瞬にしてしんと静まり返り、本などをしまう音が聞こえるだけとなった。
問題用紙と解答用紙が配られる。
マークシートではない。
時計の針が11時をさすと教室内にチャイムの音が響き渡り、皆一斉に試験を開始した。
オレもワンテンポ遅れて問題用紙を開く。
試験の半分に当たる30分が経った。
オレの解答用紙のほとんどは白紙のまま。
手は一向に動かない。
問題があまりに難しすぎた。
大問1はセックスに関する基礎知識問題。
オレは女じゃないから避妊方法であるオギノ式の詳しい内容なんて知らない。
男と女がつながっている絵があり、この体位を答えろなんていう問題も出た。
隣の青年は何も考えることなく解いたことだろう。
こんな問題も出た。
「乳房への愛撫に関して『男性は女性の反応に常に注意し、強さや時間に変化を持たせるべきである』という言葉で有名なアメリカの性学者の名を答えよ」答えはエスクナー。
誰が知るか。
大問2は歴史問題。
セックスの歴史に関しての出題だ。
コンドームが初めて使われるようになった年が何年かなんて答えられるわけがないし、知っていても役に立つもんか。
そして試験開始45分後。
教室内にアナウンスが響きわたり、大問3、リスニング問題が始まった。
男の声で問題の説明が流れた後、女のセックスの声が流れてきた。
異なる声が4種類。
そして再び男の声。
「今のうち感じている演技の声はどれか」これは少しは実用的。
全くわからなかったけど。
さらに十数問続いた後、筆記試験の終了を告げるチャイムが鳴った。
ふーっとまわりから長いため息が漏れる。
みんな何かをやりきったという感じの充実した顔をしている。
それはとなりに座っていたシュンも同じだった。
「どうだった?」シュンがオレの肩を叩く。
オレはうつむいたまま、言葉を返すことができない。
「そう気を落とすなよ。今回が初めてなんだから。それにまだ次の実技試験がある」シュンはそれだけ言うと、また気を引き締め直すようにヘッドフォンをつけ、持参してきたコンビニのおにぎりを取り出した。
セックスの声を聞きながら飯を食うなんて、悪い趣味。
昼食休憩の後は実技試験。
オレの受験番号は比較的早いほうだったから、わりと待つことなく名前が呼ばれる。
実技は10人1グループで行われるらしい。
受験会場の教室の外にはパイプ椅子が用意してあり、そこに座るとそれぞれが思い思いに自分の世界に入っていった。
何かぶつぶつ言いながら腰を振る者。
暗記してきたらしい甘い口説き言葉を口にする者。
シュンは相変わらずヘッドフォン。
実技試験のことはもう言いたくないし、試験の結果も言いたくない。
まあ言わなくてもわかるだろうけどね。
シュンの結果も言いたくないし、加奈に馬鹿にされたことも言いたくない。
オレはまだまだ未熟だったんだ。
それがわかっただけでもよしとしないと。
なんていったっておれにはたくさん時間がある。
家の店番は暇だからな。

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