バイト先のスーパーで出会った美人妻[中編]

2018/12/07

そこは俺のアパートの近くの24時間営業のレストラン。
「よくここでレポート書いたりしてるんですよ」
「・・・」
マキさんは駅での発言の後は、電車の中でも俺の隣に座ってガチガチに固まっていた。
「それで何か俺に話したい事があるんですか?」
2人コーヒーを頼んで向かい合って座る。
「あの・・・なんて言うか・・・私・・・」
マキさんの話を要約すると、ずっと箱入り娘で、大学生時代に初めて付き合った相手が今の旦那。しかも大学の教授らしい。親の反対を押し切って年の離れた旦那と結婚。バイトや仕事なんてしたことがなく、ずっと専業主婦をしてきたらしい。それで数年は幸せだったそうだ。だが、なかなか子供は出来ず、不妊治療に通うように。そして1年前に旦那が糖尿でEDに。夫婦仲もそこから急激に冷え込んでいったそうだ。旦那は家に寄り付かなくなって、最近では生活費も滞るらしい。駆け落ち同然で実家を飛び出したので親に頼る事が出来ず、仕事を探して飲み屋などにも勤めようとしたものの、お酒に弱くて話にならず、スーパーのバイトに出てみたらレジが上手くいかない・・・。友人も出来ず、誰にも相談できない。『自分はなんてダメなんだろう』と自信をなくしていた。そんなところに品出しに回されて、俺に厳しくだけど丁寧に教えてもらえて凄く嬉しかったと。それで、いつか俺にゆっくり話を聞いて欲しかった。それで今回、思い切って声をかけたのだそうだ。
「ごめんなさい・・・。こんなおばさんに言われても困るよね・・・、でも他に頼れる人がいなくて・・・もう限界で・・・、話を聞いてもらえるだけでもすっきりするかなって・・・。あの・・・迷惑なのはわかってるんですけど、たまにはこうして2人で話を聞いてもらえませんか?家には誰もいなくて・・・一人でとても寂しいんです・・・」
思い詰めたように話すマキさん。俺もそういうことなら良いかなと、たまに仕事終わりにこうやって2人で話すくらいならいいと思って承諾した。まあ、ぶっちゃけ少し期待してた、とは思う。でも店長に信頼して任されたわけだし、手を出すのはマズいよなって思ってた。
「ごめんなさいね、変なこと頼んで・・・。でも私には本当に他に相談に乗ってもらえるような人がいなくて・・・」
「構いませんよ、これも仕事のうちですよ」
恐縮するマキさんに気を遣って言ったつもりだったが、それを聞いたマキさんは、「ありがとう・・・」と少し寂しそうに笑っただけだった。
それからは週1回くらいの割合で、仕事が終わった後、マキさんと喫茶店なんかで話をするように。内容は主に仕事の事が中心。あの辺はこうした方が良いとか、明後日の売り出しは俺がここを担当するからマキさんはあっちでとか。あとはマキさんの愚痴とか、レジ部の嫌なおばさんの話とか、未だにしつこく言い寄ってくる精肉部のAさんの話など。そういう話題が尽きてくると俺が好きな映画の話とか、ほとんど俺が話してるだけだけど、マキさんはニコニコ話を聞いてくれた。マキさんは前よりずっと元気になってて、話していると凄く幼く感じるところとかもあって、最初は綺麗な人って感じだったけど、俺の冗談にコロコロ笑うところは、どこか年下のような雰囲気で可愛い感じの人だと思った。
ところが、そんな喫茶店デートが店の中で噂になってしまった。どうやらどこかで2人でいる所を見られたらしかった。仕事はしっかりしてるので表立って何か言われたりはないけど、どうも陰で色々噂の的になっているらしい。
「おい、お前等、まさか・・・」と店長に呼び出されたが、「いえ、仕事のことで色々反省会をしていただけです。やましい事はありません」と正直に言う。
店長には、「お前の事だから嘘はないと思うけど、相手は一応人妻だからな。こういう職場だし気をつけてくれ」と言われた。
ということで、しばらくは2人で会う事は控えようということになり、話はメールや電話でということになった。また、仕事もシフトをズラしてお互い別々の人と組む事に。
『真面目に仕事をやってさえいれば、こういう噂は消えますから』と、マキさんにメールすると、『わかりました・・・。私のせいで本当にごめんなさい』と、すぐにマキさんから返事が来た。
『そういう落ち込みは必要ないですよ、これは2人が招いた事ですからお互いの責任です。失った信用は仕事でちゃんと取り返しましょう!』
『はい!』
それでしばらくは2人違う時間帯で仕事に励むことに。マキさんは新しいパートナーのおばさんにこき使われながら、毎日それでも頑張っているようだ。そうこうしている間に、お互いメールを送りあう頻度も少なくなっていた。やはり年も離れていて、日頃に接点がなくなると、なかなか共通の話題もなくすれ違っていった。俺がメールが苦手な事もあって、マキさんから『お元気ですか?』とかメールが来ても、いまいち気の利いた返しが出来ないもんだから余計だった。
そんな事が3ヶ月くらい過ぎたある日。その日、俺はシフトが休みで家でゴロゴロ・・・。夜の9時過ぎだった。テーブルの上の携帯が鳴った。出るとマキさんだった。実に2週間ぶりの電話だった。最近ではほとんど会話が盛り上がらず、時々話をする程度になっていた。
「どうしたんですか?」
「あの・・・私・・・」
電話のマキさんの声は元気がなくて幽霊みたいだった。
「私、寂しくて・・・それで・・・、ダメだって思ったんだけど・・・」
マキさんはその日も仕事が終わった後、一人ポツンと駅ホームに立っていた。そのまま電車に乗れば自宅に帰れたのに、俺の家がある方面のアナウンスが聞こえてフラフラと俺の家のある方のホームに歩き、気がついたらあの24時間のレストランの前に来てしまったと言うのだった。
レストランへ行くと一人ポツンと席に座っているマキさんがいた。表情は暗くて、最初の頃のように肩を落としていた。席に着いてコーヒーを頼むと、マキさんがこちらに気がついた。
「ケン君・・・」
マキさんは俺の姿を見ると今にも泣きそうになった。
「ご飯食べましたか?」
マキさんは首を左右に振って答えた。
「なにか頼みますか?」「ごめんなさい・・・」
「そういうのはもうやめましょう、迷惑だったら今ここに来ていませんから」「・・・」
「仕事で何かありましたか?」「いえ・・・私・・・」
「お腹減ってないなら、ここ出てよそに行きましょうか?」
コーヒー代を払って二人店を出る。
「さて、どこへ行きましょうか?と言ってもあまり持ち合わせないんですけどねw」
そう言いながら振り返ると、不意にマキさんが抱きついてきた。
「マキさん?」「ごめんなさい・・・でも私、もうどうしたらいいか・・・」
「いいんですか?」「もうどうでもいいんです・・・私なんか。・・・ただ、もう家に一人は嫌なんです・・・」
そのままマキさんと手を繋いでアパートの部屋に戻る。
「適当に座ってください、今コーヒー入れますから」
「・・・」
マキさんはフラフラとワンルームの狭い部屋に入り、テーブルの前で座り込んだ。コーヒーを2人分入れてテーブルの反対に座る。
「そう言えば久しぶりですね、こうやって話をするの」「うん・・・」
「元気でしたか?メールだとなかなか上手く文章が書けなくて」「寂しかった・・・」
「マキさん?」「凄く寂しかったの・・・。馬鹿みたいだけど、あなたと話が出来なくなってメールだけになって、どんどん話が合わなくなっていって・・・、凄く寂しかったの!!」
マキさんは涙を流していた。
「ケン君と一緒に過ごしてる間、凄く私、久しぶりに一人じゃないって思えたの。みんな冷たくて優しくなくて・・・世界に一人だけみたいな気持ちだった。ダメなんだと思った、ちゃんとしないとって・・・。でもね家に一人でいると思うの・・・どうしようもなく寂しくて、ケン君の事ばかり考えちゃうの・・・。ごめんなさい・・・迷惑よね、こんなおばさんに付きまとわれて・・・。でも寂しくて・・・ケン君がいないと私・・・、もう耐えられない!」
そう言うとマキさんは俺を押し倒すように抱きついてきた。
「マキさん・・・」「キスして・・・」
「でも・・・マキさん・・・」「お願い!私のこと嫌いじゃないなら・・・、都合のいい女でもいから・・・あなたのそばに置いて欲しいの・・・一人はもう嫌なの・・・」
涙がポタポタと俺の頬に落ちてきた。綺麗な大きな瞳に吸い込まれるようにマキさんにキスした。そのままマキさんは夢中で何度もキスしてきた。
「んっ・・・」
マキさんの舌が入り込んでくる。そのまま舌を絡めながらマキさんを抱き上げベッドに倒れ込む。
「マキさん・・・、俺は不器用だから都合のいい女ってどういうのかわかりません。だから先に進む以上は俺も本気ですけど、その覚悟ありますか?」「私を受け入れてくれるの?」
「今までは我慢してたけど、俺、マキさんみたいな人好きですよ」「でも私、年も離れているし・・・」
「そういうことを乗り越えて、もう一度俺と一緒になるだけの覚悟ありますか?俺はまだ学生で生活力とか全然ないけど、やるからには旦那さんからあなたを奪い取るつもりでやりますよ?」「・・・本気?」
「俺が嘘とか、その場限りのでまかせを言わないのは十分わかってくれていたと思ったけどな」「嬉しい・・・ケン君・・・、私を一人にしないで。お金なんかいらないの・・・苦労してもいい、ケン君のそばがいいの」
「マキさん」「マキって呼んで。私はあなたのものになりたいの!」
「マキ・・・」「ああ・・・ケン君、大好き・・・愛してる・・・」
<続く>

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