自衛隊の部下と初めて結ばれた日

2018/04/20

前回の話
自衛隊は一定の基準で駐屯地内に人を置いておくきまりになっているので、
代休だからといって無条件に外出できるとは限らないのだが、運良く4日とも
外出できることになった。
それで、木曜日に私は山本と遊びに行く約束をした。
しかし、無粋な私はここでも困った。
私も20台ではあったが、山本はついこの前まで
18歳だった19歳である。
自衛隊で煮しめたような当時の私が休みの日にすることというと、
外出してパチンコ屋へ行き、飯食っていきつけのスナックやパブで酒飲んでカラオケ歌って帰る。
たまにはスナックのねえちゃんとセックスすることもある。
そんなくらいだったからだ。
小学生のような山本が面白がりそうなことを何も知らないのである。
結局、木曜の昼、何も考えないまま待ち合わせ場所に来てしまった。
駅近くのマクドナルドの前である。
秋だった。
私服を着た山本を、考えてみると私は初めて見た。
スカートをはき
Gジャン、Tシャツみたいなものを着ている。
私を見かけると、「あー、班長ぉー」と
手を上げて駆けて来た。
少し化粧している。
ところが、無粋な私にもわかるくらい、
その化粧が下手だった。
犬の顔にマジックで眉毛を描いたようだ。
そのくせ、開口一番、山本は
「もー、班長、まんまじゃないですかー、私服もぉー」
などと言う。
私はごく短いクルー刈り、黒茶の革ジャン、チノパンといういでたちで、
パンチパーマではないにせよ、当時の自衛官の判で捺したような格好である。
ヘタクソな化粧の山本にそんなことを言われ、自分でもそれがおかしくて、また、
「小学生みたいな」と今まで思っていたのが思い直されていとおしく可愛く思え、
逆に気分が明るくなった。
何をして楽しませてやろうかなどと考えあぐねて
困っていたことがそれで忘れられた。
することを何も考えていなかったが、安直にそのマクドナルドでコーヒーを飲み、
ハンバーガーを食ってしゃべった。
山本は楽しそうによく喋った。
山本の人となりは、
特技教育の折、身上を把握していたから知っているつもりだったが、私の知らないことも
沢山喋った。
好きな音楽、好きな映画、俳優、高校時代、家族のこと、好きだった人のこと、
中隊の嫌いな奴、退職した同期のWACの仲の良し悪し、旅行したこと・・・。
気がつくと3時間もそうしていた。
山本の話すのを聞いていると、話の内容よりも、
彼女が安心し切っている様子がこちらにも伝わってきて、それでなにやら心が安らいだ。
本屋に行きたいと言うから一緒に本屋に行き、ゲーセンを覗きたいと言うからついていって
やった。
服を見たいと言うから、一緒に見た。
しかし、服は買わなかった。
班長ご飯おごって
くださいよう、と言うから、一度行った事のある洋食屋に連れて行った。
小奇麗な所である。
肉を食うことにしたのでワインを頼むと、私も飲みたいと言う。
未成年だが、まぁ少しぐらい
いいか、と思って、デカンタとグラス二つにする。
飯を食い終わって、
「お前、今日、帰り何時だ?」
と聞いた。
自衛隊では帰隊時限が決まっているのだ。
階級によっても違うが、例えば
当時の彼女なら、普通は2200(午後10時)までで、その30分前には帰っていなければ
ならなかった。
「えへへ~、班長、今日私『特外』ですよぉーん。
じゃじゃーん」
と彼女は言って、身分証明書を取り出した。
特外、というのは、特別外出のことで、外泊を許可する外出である。
当時は陸士には
特別の事情がないと許可は出なかった。
特別の事情とは、近所に住んでいる親の面倒を見る、
などである。
だが、陸曹になれば、一定の基準で、随時特外が出来た。
したがって私は外泊できるが、彼女は時間までにちゃんと部隊に帰してやらなければ
ならない。
だが、彼女は「今日は特外です」というのだ。
外出が許可されると、外出許可証という小さな札をもらい、それを身分証明書に結び付けて
なくさないように紐で縛って携帯するのだ。
自衛隊の駐屯地の門を出入りするとき、
身分証明書と一緒にそれを提示して出入りするのである。
彼女がそのヒモ付きの身分証明書を開いて私に見せると、たしかに「特別外出許可証」の
札がある。
「お前これ、どうしたんだ。よく許可下りたな」
「はい、おウチに帰りたいですー、って言ったら、ソク、許可でした、えへへ」
「あー・・・お前の場合は付准尉に直提出だもんな」
普通、外出の手続きは、営内班長と言う者に外出申請を提出し、付准尉を経て、
場合によって各服務指導者の捺印を貰い、中隊長が許可を出すのだ。
だが、付准尉から先は、ほとんどメクラ判である。
外出申請の関門は、「営内班長」が
最大のものであった。
営内班長は自衛隊の営内の、生活など一切をとりしきっており、営内班長を
納得させなければ外出申請を上げてもらえないのである。
ところが、彼女は、課業外は中隊から離れた「WAC隊舎」というところに起居し、
他の中隊の隊員とは別の指導系統に属していた。
私の中隊にはWACは
彼女1人しかいなかったので、外出申請は特別に、付准尉に直接指導受けする
ことになっていたのである。
出来たばかりのWAC営内班の規則があってないようなものだったこともあり、
所属先の付准尉がいいと言えば、それで通るところもあったようだ。
この付准尉は定年前の老准尉で、自分の娘より年下の山本を見ると、おお、
そうかそうかと何でも聞いてしまうのだ。
今回もそうして、甘い許可を出したに違いなかった。
なるほど、私にも下心がある。
ぞんざい適当そのものの付准尉の仕事振りが、
今日は私にはありがたく思えた。
「ねーねーだから、班長、お酒飲ませてくださいよー。
おごってくださいよお。
カラオケとかやりたーい」
当時は、カラオケボックスというのはごくわずかに出来だしたばかりで、カラオケといえば
スナックやパブなどの酒場で楽しむものだった。
だから、彼女くらいの小娘は、一度
それを見てみたいと思っていたのかもしれない。
「でもお前、付准尉がお前んチに電話したらどうすんだよ」
「そんなことするわけありませんよぉ。
あの鈴木准尉がそんなマメな仕事してるの
見たことないでしょー」
彼女は屈託なくケロケロと笑った。
私もスケベな普通の男である。
担当直入に山本に言った。
「おい、山本。
このへんで酒なんか飲み歩くと、中隊の誰かにかならず出くわす。
お前が特外の行動予定通りにしてないことはすぐバレてしまう。

「あ、そうかー。」
「お前、だから、俺と今すぐラブホテルへ来い」
「きゃー班長、そんなもう、声、やーん」
声が大きかったようだ。
隣の席の人がこっちを見たような気がする。
「いや、すまん、・・・あのな山本。ラブホテルでも酒は飲める。映画なども見れる」
「へぇー、班長よく知ってますね」
「いやその、だから」
山本がおかしくてたまらないという風に声をひそめ、
「えへへへ、行きたい?ラブホテル」

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