どす黒い欲情と愛する妻ゆかり[前編・第4章]
2018/03/10
翌日、私が一足先に私たち夫婦のマンションに疲れきって帰ったあと、夕方になって妻も帰ってきました。
例によって私は、妻たち三人がブランチに出掛けた隙にマンションに戻っていたのです。
「クラス旅行はどうだったかい」と尋ねる声がぎこちないのが自分でも分かりました。
「え?ええ、楽しかったわ・・・」
妻も私の顔を正視できない感じです。
「ごめんね。寂しい思いさせて」と妻は言って、私にぎこちなくキスをすると、「夕食の支度するね」といってキッチンに立ちました。
日曜日の夕方、いつもなら、もっと会話が弾むのに、重苦しい雰囲気です。
私は、妻が料理をしている様子を窺いましたが、なにやら思い詰めているようです。
私は、悪い予感がしてきました。
やがて、料理がテーブルに並び二人で食事が始まりました。
私は探りを入れるように、妻が行ってもいない旅行の様子を尋ねます。
妻は作り話でもして旅行に行った感じを取り繕うかと思ったのですが、私の予想に反して、生返事しか返ってきません。
本当にクラス旅行だったのかどうかさえ、もうどうでもいいという雰囲気さえ漂っています。
私の悪い予感は、次第に確信に変わってきました。
“妻は何かを隠している。
そして、もう、それが私に知られてもいいと思っている”
何を隠しているかは、私にはもう分かっています。
私の不安を掻き立てるのは、妻がそれをもう私に知られてもいいと思っている様子なのです。
重苦しい雰囲気の夕食が終わった後、妻はテーブルを綺麗に片付けると、ついに重い口を開きました。
「・・・ねぇ。あなたに知って欲しいことがあるの」
私の心臓はいっぺん高鳴り始めました。
ついに恐れていたことが現実になろうとしているのか。
まさか私の最愛の妻が遠いところへ行ってしまおうとしているのではないか。
「な、なんだい。急に」
心とは裏腹に私は平静を装います。
「私、あなたに言わなければいけないことがあるの」
「・・・」
「でも、その前に一つだけ信じて」
「なにを?」
「私、あなたのことを愛してる。もしかしたら、今までの人生で本当に私を愛してくれたのはあなただけかも知れないとも思ってます」
「ど、どうしたんだよ。急に・・・」
私は、少し救われたような気分になりました。
もしかしたら、処女を捧げたT青年のあまりにひどい仕打ちが、私の妻への愛を再確認させたのかも知れないと思ったのです。
「でも、私、自分が自分で分からなくなっているの」
たしか、初めてKと二人で会った後も、同じようなことを言っていたと思うと、私はまた急に不安になってきました。
そして、妻はついに言ったのです。
「あなた、Kさんって覚えてる?」
ついに妻の口からKの名前が出たのです。
私が恐らく死んでも忘れることのないKの名前です。
「Kさんのこと、覚えてる?」と聞かれた私は、凍りつきました。
忘れるもなにも、私はつい数時間前まで、KとT青年が妻を思うままに犯すところをマジックミラーの裏から見ていたのです。
Kがその恐るべきその精力で、何度も何度も妻の体内に白濁した粘液を放出する様子を見せ付けられていたのです。
「あ、ああ」と私は上ずった声で答えます。
「・・・そうよね。忘れる訳わけないよね」と言うと、妻は、わっと泣き出しました。
私は、何をどう言ってよいのか、頭の中が真っ白になっています。
「ごめんなさい。全部、私が悪いんです」
やっと、少し落ち着いた妻は小さな声で言いました。
私も、「それじゃ、全然、分からないよ。いったい、どうしたの?」と聞き返すことができました。
「Kさんに初めて・・・抱かれたとき」
妻が語り始めました。
私はごくりと生唾を飲み込みます。
「私、何がなんだか分からないほど・・・、いかされてしまったの。あなたも、見てたよね・・・」
妻の青白かった頬に少し赤みがさしてきました。
私とは目を合わせないよう下を向いています。
「二回目に二人きりで会ったとき・・・」
私が悔やんでも悔やみきれないのは、つまらない意地から、妻とKが二人きりで会うことを許したことでした。
「もしかしたら、Kさんこそ、私の探していた人かも知れない・・・と思ったの」
妻は申し訳なさそうに私を見ました。
「何度も何度も抱かれて・・・、あなたとはしたこともないようなことまでして・・・」
私の中では、あのどす黒い欲情が広がり始めます。
「Kさんにも、『愛してる』って言われたの」
とんでもないことです。
Kは妻を性の玩具として弄びたいだけなのです。
しかし、私は黙っていました。
そんなことを言えば、私が妻とKの痴態をずっと見続けていたことを白状するようなものだからです。
「それで・・・?」と言うのが精一杯でした。
「そのあとも、あなたを愛してるのに、Kさんにも体を許してしまったの」と言うと、妻はまた、わっと泣き出しました。
ひとしきり泣いたあと、妻はようやく「・・・赤ちゃんも欲しかったの」と絞り出すような声で言います。
私は身を切られるほど辛い気持ちになりました。
「X先生からも、『Kさんとは体の相性もいいから、しばらく関係を続ければ子供はできる筈だ』って言われたし・・・」
私は、もう何と言ったら良いか分からず、泣きじゃくる妻の体をさするだけです。
でも、「体の相性」という表現を聞いて、私の肉棒はぴくりと反応し始めていました。
「でも・・・。もう、良く分からないの」
「何が」
「Kさんが私を本当に愛しているのか、ただ・・・」
「ただ?」
「私の体を弄びたいだけなのか」
「愛してなんかいる訳わけないさ。ゆかり、目を覚ましてくれ。君は騙されてるんだよ」
しばらく沈黙が流れます。
「私、Kさんと結婚したの・・・」と、妻が言い出しました。
「けっこん?」
私はびっくりしたように聞き返します。
「そう、結婚よ」
「何だよ、それって」
「分からないわ・・・。Kさんたちの世界での結婚だって」
「ふざけないでくれよ」
「私って、Kさんたちの世界では、私は彼の妻なの」
妻は遠いところを見るような目になりました。
「彼の世界では、彼の妻として振舞わなきゃいけないの」
妻は浮かされたように話し続けます。
私は、妻の肩を両手で激しく揺すりました。
「ゆかり、しっかりしてくれ。何を言っているんだ」
妻は我に返ったように言いました。
「私、変よね。あなたを愛しているのに・・・。Kさんを、嘘つきじゃないかと思い始めてるのに・・・。また、彼のこと、考えたりしてる」
「どうかしてるよ」
妻はしばらく黙っていましたが、改めてきちんと座り直して、私の方を見ました。
「お願いがあるの。本当に・・・、図々しいお願いなんだけど」
「・・・なんだい」
「本当の自分を確かめたいの。Kさんがどうこう言うんじゃなくて、私の本当の気持ちを確かめたいの。私があなたを愛していることを、もう一回、きちんと確かめたいの」
「どうするんだ」
「・・・Kさんと旅行に行かせて下さい」
「え?なんだって」
「彼が、新婚旅行に行こうって言ってるの。あなたにもきちんとお願いしなさいって」
Kが、本当のことを言えと言っているのです。
それにしても、私の妻を新婚旅行に連れていくというのは、どういう神経なのでしょうか。
「・・・もし、あなたが反対したら・・・」
「反対したら・・・?」
「・・・『罪滅ぼしって言え』って」
私は愕然としました。
もし、私が反対したら、Kは私とれいこの一回だけの過ちを妻にバラすつもりなのです。
思い出してみると、あの時は、Kが予約したホテルで行為に及んだのです。
妻とれいこの夫の行為がすべてビデオに撮られていたように、私たちの行為もビデオに収められているのかも知れません。
私は背筋が凍りつきました。
「『罪滅ぼし』って何?」と妻が私の様子を窺うように聞きます。
私は、「う~ん」と言って誤魔化すのが精一杯でした。
「どこへ行くの」
「ハワイにKさんの商売仲間がいて、別荘を持っているんだって。そこを借りるそうです」
「何日くらいなんだ?」
「・・・一ヶ月くらい行こうって。本当にごめんね。でも、これで私の気持ちが確かめられるから・・・」
私は頭を抱え込みましたが、許す以外の選択肢はありませんでした。
私は愛する妻を一ヶ月もの長い間、他の男との旅行に送り出さなければならないのでした。
いったい、その旅行がどんなものになるのか、Kが次に何を考えているのか。
Kは、妻の体だけでなく心までも弄ぼうとするかのように、その旅行のことを新婚旅行と呼んでいるのです。
れいことの秘密を握られている私には抵抗することが出来ませんでした。
でも、正直に言うと、一ヶ月に渡って嫉妬に身を焼かれる自分自身を想像すると、どす黒い欲情が頭をもたげてきて、自分の肉棒が熱くなるのをこらえることができなかったのです。
Kは、絶対に、途中で妻と二人で過ごしている様子を知らせてくるでしょう。
勝ち誇ったように、妻の心と体を弄ぶ様子を私に知らせてくるのが、Kの最大の喜びになっているのに違いありません。
そして・・・、情けないことに、私自身もそれを密かに期待しているのでした。
「いつ、出発するの」
「・・・あしたです」
「あした?何も準備が出来ていないじゃないか」
「身の回りのものは、全部、向こうで揃えるから、体ひとつでいいって」
体ひとつという妻の言い方に、私の肉…