サークルの大学生と 壱
2017/09/17
1俺がまだ、大学生の頃。
ちょうど、
大学生活も中盤を過ぎて後半を迎えた時期だった。三年からの就職活動で幾つかの内定を得ていた俺は、
ひとまず、卒業後の進路が固まってきたので安堵すると共に、
頭の中にある残りの懸念材料を片付けにかかっていた。
と、言っても卒業する為の単位を取得する事と、
内定を得た中から就職先を決定する事、
くらいなので他の学生達と何も変わらない悩みだった。
この内、就職先については、
第二希望と第三希望から内定を貰っていたので、
そのどちらかになるだろうな、というのをぼんやりと頭に描いていた。卒業に関しても、
取得しなければいけない単位は無理のある量ではなかったので、
殆ど悩みなんてない、というのが実情だったかもしれない。
よほどの予測不能な事態が起こらない限り、
自分の前途は洋々に見えた。
四年の春になると、見通しは更に確かになってきて、
あとは卒論と単位に集中していればよい、という状態になった。
その頃になってくると、
自分の生活に物足りなさを感じてくるようになってきて、
まるで入りたての一年生のように何か面白い事はないだろうか、
と自分の周りを嗅ぎ回るようになっていた。
構内掲示板や学食で周囲の人間がしている会話の中から
興味を惹くような話題がないかと
アンテナを張っているみたいな状態だった。
しかし、俺の希望を満たすようなものは、なかなか見付からない。
何か新しい事を始めるにしても一年もしない内に卒業だし、
仕事に備えなくてはいけない用事なども発生してくるだろう。
新入生ではないのだ。
腰を据えて何かに取り組むような事は出来ないし、
同級生の進路先は様々だから
クラスで何かをするというのも無理があった。
その時になって俺は、
思った以上に自分が不自由な状態であるのを知った。
しかし、あまり落胆はしていない。
元々、興味のある事を探す、と言っても、
そんなに簡単に見付かる、と期待していた訳ではなかったものだから、
半ば諦め半分の気持ちで毎日を過ごしていた。
大学に行って、週三回バイトをして……
という毎日は退屈ではあったが平和な日々だった。そうして、ちょうど春が終わり、梅雨が来ようか、という頃。
興味深い話を聞いた。
俺の所属する学科は文系で、比較的、少人数で構成されているのだが、
その内の一人が、あるサークルについての話をしていた。
そのサークルの主な活動は、
俺達の大学と近隣の大学で合同の飲み会を開催している、
というものらしい。
要するに合コンなのだが、
その言葉から連想させられるものとは雰囲気が全く違い、
恋愛色は薄く、酒を飲みながら研究関係の話なんかをするのが
主な目的なんだそうだ。
そんな話は初耳だったので、俺は、その話を更に詳しく訊いてみた。
すると、その会合は、便宜上「サークル」と呼んでいるが、
会員なんてものはなく、かなり自由な集まりである事がわかった。
そもそものきっかけは、
俺の大学にいる男と他校にいる女が付き合っていて、
彼等が主催者となって何度か合コンを開催していたが、
次第にカップルが誕生しては抜けて行き、メンバーを入れ替えながら
現在は恋愛志向のない者達が残った集まりだ、という事らしかった。
これは、面白い、と思った。
更に詳しく訊いていくと、基本的に参加は自由な事。
ただし、社会人や全く大学に関係のない人はNG。
それから参加費として、
一人分の飲み代程度の会費を徴収される、という事。
それ以外に、特別な決まりはない。
会費さえ払えば、途中参加、解散でも構わないらしかった。
つまり、参加者の会費が当日の飲み代になるみたいだ。
俺は、その話をしてくれた友人に、
次は、いつ飲み会が開催されるのか、という事と自分も参加をしたい、
という話をした。
日程については、はっきりとは決まってないらしい。
「おそらく次の金曜だろう」と友人は言った。
参加はしたいが、日程がわからないのでは困る。
それに、勝手がわからないのも不便だ、と思った。
すると、友人は、
「じゃあ、次回は俺も参加するから一緒に行こう」と言ってくれた。
俺は、礼を言って開催日が確定するまで連絡を待つ事にした。それから、数日後。
友人から連絡が来た。
次回の開催は、やはり二日後の金曜に決まったようだ。
俺は参加の返事と礼を言って当日の打ち合わせをした。
そして金曜夕方。
講義が終わり、
友人と少し時間を潰してから待ち合わせ場所の駅前へ向かう。
暫く待っていると、予定されていたメンバーが揃ったようなので、
居酒屋みたいな店に移動する。
参加者は俺達を除いて十人ほど。
最初に俺は、簡単に紹介されて名前と学部、学年を言った。
その夜は、とても刺激的な夜だった。
何人かと話をすると、初めて会った人達だったが、
どの人とも自分と共通する話題があるのがわかる。
違う大学の人間もいたが、研究内容が似ている人達が多かった。
後から知ってわかった事だが、
友人が話した参加条件に俺が聞かされていない事が一つだけあった。
それは、俺の大学からは、どの学部からでも参加出来るが、
他大学からの参加は特定の学部からしか認めていない、という事だった。
これは、複数の大学を跨いでの集まりで
参加者同士が馴染み易くする為のある種の方策だったみたいだ。
自分の大学なら多少学部が違っても話が合うだろうが、
他の大学となると、なかなかそうもいかない事が多い。
その為、他校の参加者は、
文系のある方面を専攻している人間だけが参加出来る事になっていた。
と、言っても著しく狭い範囲ではないから狭い門でもない。
俺の大学からの参加者に対して門が広いのは、元々、
このサークルを始めた人間と現在の主催者が俺の通う大学だった、
という理由が大きいだろう。
だから、俺と同じ大学ではない人間は、
俺と専攻内容が似ている可能性が高かった。
友人は、俺が、その条件を満たしていて、
尚且つ条件を満たさなくなるような恐れがないので
説明を省いたのだろう、と思われる。
どちらにしても俺が参加するのに不都合はないし、
聞いても聞かなくても困らない条件ではあった。
しかし、その規制の御蔭で、
俺が初対面の人達に苦もなく解け込めたのも事実だった。結局、その日は、
研究上の議論と卒業後の話などの雑談をして時間が過ぎていった。
帰り道は、上機嫌だった。
議論がこんなに楽しかったのは、いつ以来だろう?
中学校の時、プロ野球の両リーグベストナインを
友人と決めようとした時以来かもしれない。
そんな懐かしさが湧いてきた。
参加者は、初めて会った人達だったが、
皆それぞれ何年か学んできた中で得た持論があるので
自然と話が盛り上がりやすい。
講義で得た知識、自分で学んできた理論などを御互いが戦わせるのだ。
そう言うと、どこか物騒なイメージがあるが、
誰かが誰かを打ち負かせる為の議論じゃないから、
御互いを尊重しつつ進んでいく話し合いが新鮮で気持ち良かった。その二日後。
誘ってくれた友人が飲み会の感想を訊いてきたので、
楽しかった事と、また参加したい事を話した。
友人は喜んでくれて、一度参加したなら、
もう一人で行きたい時に行って構わないと教えてくれた。
俺は、開催日はどうやって知るのかと訊くと、
主催者にアドレスを訊けばいいらしい。
そうすれば、向こうからメールで知らせてくれるようだ。
友人は、最後に、こう言った。
「とりあえず次回の日程が決まったら俺が教えるから、
そこで参加して、後は自分でアドレスとか訊きなよ」
俺は礼を言って連絡を待った。それから数日後。
友人からメールが届き、
そこには次回のサークルの待ち合わせ時間と場所が書いてあった。
それから今回、自分は参加出来ないが楽しんできてくれ、
という意味の言葉があった。
時間や場所は前回と同じだったから迷わないだろう。
曜日は、やはり金曜日だった。そして当日、駅前。
待ち合わせ場所に着くと、
前回、知り合った顔を見かけたので、挨拶をしたりした。
全員が揃ったようなので、店に向かう。
今回の参加者は二十人程度。
前に見かけた顔は半分くらいか。
人数が増えている分、賑やかで、同じ店に入ったのだが、
今回は大きなテーブル席に案内された。
乾杯が終わると、雑談から次第に前回のような盛り上がりに。
前回知り合った人が話を振ってくれたりしたので、
俺も積極的に話し合いに加われた。
この辺の流れは図ったように同じだった。
違いと言えば、微妙に参加者が異なるくらいだ。その中で一人、気になった女がいた。
前は友人がいたせいで様子見というか
友人の陰に隠れていたような形だったせいもあるけど、
参加者全員にまで意識がいかなかった。
今回は一人だったせいで自然と色んな人へ視線がいったので、
前回よりも参加者の顔を知る事が出来た。
飲み会の席なんて決まってるように見えて、
決まってないようなものだったから、
適当に周りの人間が変わっていくけど、
始まって一時間くらい経った頃、その子は俺の隣に座って声をかけてきた。
「見ない顔だけど、初めて?」
「はい。前回からです」
俺も、その子に見覚えがなかった。
おそらく前回は来ていなかったのだろう。
全体的に目立つ容姿だった。
髪は緩いウェーブがかかっていて茶色い。
若干、吊目というか猫目で、
頬には張りがあって健康的な雰囲気がした。
酔っていて血色が良いせいで、そう見えるのかもしれない。
肌が白いから火照っているのが、よくわかった。
「そう……。誰かの紹介?」
流し目で見られるとゾクリとする妖艶な雰囲気がある。
その瞳のせいだ。
「ええ……」
俺は友人との…