俺のトラウマ1
2023/01/16
俺と彼女は当時付き合い始めてすでに丸4年。
大学のサークルで知り合った2つ年下の本当に可愛い娘でした。
喧嘩はよくしていましたが、仲直りするのも早くて、仲間内では結婚秒読みじゃん!なんて言われていました。
俺は本当に彼女を愛していましたし、彼女も愛していてくれていたと思います。
その日は彼女と食事に行く約束をしていました。
待ち合わせの時間を気にしつつ、仕事を片付けていると、終業時間まであと少しというところで、トラブル発生。
泣く泣く彼女に約束キャンセルの電話をしました。
その当時は本当に忙しく、立て続けにドタキャンばかりしてしまっていたので、その日も凄く彼女に怒られました。
すでに怒りを通り越して、こんな俺と付き合っている自分を心底哀れんでいるような、そんな呆れた感じの声で「またね」と言われました。
「また」なんて機会は無いのかもなぁ?なんて考えが一瞬脳裏によぎったのをハッキリと覚えています。
その時起こった仕事のトラブルは簡単に解決してしまうわけなんです。
でも、待機時間ばかりが長くて、すぐに彼女に連絡とって
「待ち合わせやり直し」ができるほど早く片付いたわけではなかったのです。
プリプリ怒っている彼女に連絡するのも気が引けたし、どうしようかなぁーって思ったんですけど、彼女の部屋に行ってみることにしました。
それぞれのアパートを借りて住んでいましたが、お互いに合い鍵を渡してあり、どっちかがどっちかのアパートに入り浸っているって感じでした。
彼女の部屋は電気が消えてて明らかに留守でしたが、まぁすぐ帰ってくるだろうと思って、合い鍵を使って部屋に入りました。
もしかして俺のアパートに行ってたりして?とも思いましたが、先ほどの電話で最後に、「いいよ家帰ってひとりでワインでも飲みますよ」とちょっとキレ気味で言ってたのを思い出しました。
貰い物の美味しいワインがあるんだと前々から言ってたので、帰るとすれば自分のアパートに間違いないだろうなんて勝手に納得して、彼女のベッドにゴロンと横になりました。
ま、ちょっと仮眠程度なんて思いつつテレビだけつけて、部屋の電気を消したわけなんですが、仕事の疲れが溜まっていたせいか速攻で眠りに落ちてしまい気づいたときにはテレビは放送終了、砂嵐状態でした。
あ?一体何時なんだ…、アイツはまだ帰ってないのかなんて思いながら時間を確認しようと思ったのですが、寝るときにはずしたはずの腕時計が見当たらなかったんです。
どこに置いたっけなぁなんて眠い目を擦りながら探していると、アパートの階段をカツンカツンと誰かが登ってくる音が聞こえてきました。
「結婚したら新築のマンション探そう」って、口癖のように言ってた彼女でした。
彼女のアパートは内装は改築されてまぁまぁだったのですが、外観はボロボロで、いかにも取り壊しを待ってますって感じだったんです。女性が深夜にヒールの高い靴なんて履いて階段昇ってきたら、まだ一段目に足を掛けただけだったとしても、二階の住人にまで足音が響くほどでした。
足音の雰囲気で、彼女だなぁーとは思ったのですが、いつものように右左と几帳面にリズムを刻むわけではなく、ダラダラとした足取りでした。
玄関のドアに足音が近づいてくるにつれて、彼女がかなり酔っ払っているんだということに気付きました。話し声から察するに、誰かに寄り添われて送られてきたって感じです。もちろん相手は男でした。
「鍵、鍵。ほら鍵出しなってば」みたいな男の低い声と「あははぁ」なんて笑ってる俺の彼女の対照的な声がすぐそこまで聞こえてきた時、俺の緊張はピークに達しました。
どうしたらいいのか全く分からずテンパってしまい、とりあえずテレビ消して馬鹿な俺はベッドの下に潜り込んでしまったんです。
小さい頃からあわてん坊とは言われてましたけど、自分でも本当にそうなんだなぁと思った瞬間でした。
ベッドの下に腕時計落ちてました。あ、ベッド脇から落ちたんだなぁ、見つかって良かったなぁ、なんて喜んでる場合では無かったですよ、マジで。
当然送ってきただけですぐ帰るんだろ?って思ってた男が、部屋の中まで入ってきて、くつろぎ始めたんですから。いや、明らかに俺の彼女が招き入れたって感じでした。
鍵はとりあえずいつも掛けるようにしてたんで、その夜も掛けてました。
どう考えても彼女が鍵を開けようとしてるんじゃないな、って感じの多少強引な開け方でドサッと倒れこむように彼女が入ってきました。
「おいおい、靴っ、靴!」なんて男の声が聞こえて、またしても俺の彼女は「あははぁ」なんて笑ってました。
わずかな隙間から玄関先に目をやると、体育座りの彼女が、男から靴紐を解いてもらっていました。ヒールの高いブーツみたいなもん履いてたみたいです。
俺の彼女はミニスカだというのに、パンツ見えないようになんて警戒する様子も全くなく、男はパンツ見放題だったと思います。
靴を脱がせてもらった彼女は、コートまで脱がせてもらって、
「脱ぎ脱ぎしましたぁー」なんて甘えた声を出しながらこっちの部屋にやってきました。
俺が隠れてるベッドがある部屋ですね。
隠れてるって言うか隠れてたつもりはなかったんですけど、結果的にはねぇ…欝。
で、部屋が明るくなって、いよいよ俺は緊張で馬鹿みたいに震えていました。
つーか、俺が今までベッドで寝てた形跡とか、部屋で過ごしてた痕跡とか残ってんだろー?とか思ったんですけど、彼女の部屋に来て、唯一身からはずしたのは腕時計で、その腕時計はベッド下に落ちてたわけなんです。
俺はスーツ姿でそのまま速攻眠ってしまい、スーツ姿で今度はベッド下ですよ。
タバコも吸ってないし、脱いだ靴のほかにも俺の靴はいくつか彼女の玄関にあるので、本当に俺がいた形跡はその部屋にはなかったのかもしれません。
形跡どころか、ベッド下では気配すらも消そうとしてる俺がいたんですけどね。
笑えますね。悲しいことに笑えますよ、今となっては。
息とか必死に止めようとしていたかもしれないですよ(笑
笑えないや、やっぱし…
で、しばらくたわいもない会話が繰り広げられてましたよ。2人は同い年だそうで、さぞかし共通の話題があったんでしょうねぇ、酔った勢いも手伝ってか、俺といる時よりも楽しそうでしたよ…。
もちろん姿は見えませんよ、足しかね。声のトーンや口調で判断ですよ。
やがて彼女はですね、電話で言ってた「貰い物の美味しいワイン」ってやつを男に勧めちゃってましたよ。俺と飲むはずだったのにね。
実際俺と飲む機会がきたらどうするつもりだっただろう?「友達と飲んじゃった」とか言うつもりだったのかなぁ。それともテキトーなワイン買ってきて俺に飲ませるつもりだったのかなぁ。
で、ワインを彼女が取りに行っている間、男はおもむろにベッドに場所移動し、タバコをふかし始めました。ZIPPOライターの音がしましたからね。
テーブルにポイっと投げ捨てるような感じで置かれたZIPPOを見て唖然としましたよ。
俺のZIPPOやんけ。なに勝手に使ってんだよこのクソ野郎、アキレス腱切ってやろうか?なんて、思ってました。ベッドの下でね…。
このワイン勧めたあたりから、いたって普通の世間話から一歩進んだ雰囲気の2人に発展してましたね。
座る位置が、今までは俺の彼女がベッドで、テーブル挟んで男がアグラって感じでしたけど、ワイン飲み始めたあたりからは、男もベッドに腰かけてましたからね。二人の足が並んで、すぐ俺の側にあったんですよ。
ふくらはぎから下だけね…。
で、俺の彼女はワイン持って戻ってきました。
しかも持ってきたワイングラスは一度もまだ使ったことがない、ちょっと高価なグラスです。ムカツキ度UP。
補足しますとテーブルはガラスのテーブルであり、透明なわけで、上に置いてあるZIPPO、灰皿、グラスは下からでも見えるわけです。
つまりベッド下にいる俺にも、テーブルの上に置いてあるものは見えるということです。
彼女はベッドに腰掛けてる男を警戒してテーブル挟んで向こう側に座る、なんてことはまったくなく、さも当たり前のように二人の足は並んで落ち着きました。
まぁこの時点で、ベッドの下は全くの死角となったわけで、俺はなんとなく安心したわけです。
それでですね、2人はワインを飲み始めたわけです。
俺はワインなんて赤か白しか見分けられないようなどん臭い男なんで、男が訳のわからないウンチク語り始め、それに対して彼女が「なるほどねぇ」なんて尊敬の念を込めたような相槌を打った時、心の底から嫉妬しました。
でもまぁ死角に入ったせいなのか、冷静に今の自分の状況を見極めようとする気持ちも湧いてきて、色々なことを考えました。
まず第一に、今何時なんだろう?というしょーもないことが頭に浮かびました。
いや、コレは結構大事なんですよ。だって俺と彼女は借りてるアパートは別だけど半同棲状態だったわけですからね。
どうしていつ俺が訪ねてくるかどうかも分からない状況で他の男とワインを飲んでいられるのか?そういった疑問に繋がるわけです。
落ちてた腕時計に手を伸ばし、時刻を確認すると午前1時半過ぎでした。俺が部屋に来たのが八時頃、少なくとも俺は四時間以上寝てしまった計算でした。
ということは、俺が寝ていた4時間以上を彼女はこの男と過ごし、この部屋に辿りついた訳です。携帯を胸ポケットから取り出し、着信を調べると、不在着信3回、無言の留守電が一件でした。全部彼女でした。
当時は携帯メールなんてあんまり普及していなかったので、届いていたのはショートメールでした。
この話はやっと漢字でショートメールを送れるようになった頃の出来事なのです。
「偶然中学の同級生と会って飲んでます。飲み明かすかも。
もちろん女友達だけですから安心してね。(ハート」
「明日、両親来るかもしれないから、私のアパートには居ないほうがいいよ」
なんてショートメールが2回に分けて送ってきてありました。
時間は午後9:25と9:33だったので、ずいぶんと早い時間帯から、この男を部屋に連れてきちゃおうかなぁという気持ちが読み取れました。
だってそうでしょう、親が来るかもしれないから部屋に居るなって牽制したのはコイツを連れ込むために決まってるじゃないですか…。
この時点で、俺は彼女とは別れようと決めていたと思います。
「今日は本当にゴメンね。今夜は会社に泊まります。もう少ししたら仮眠室で寝れるかもしれません。おやすみね。」
と、くだらないショートメールをベッド下から送信し終えた後、電源を切りました。
もしかしたら返事来るかもしれないと思ったからです。ベッド下でブルブルバイブを鳴らすわけにはいかなかったのです。
でも、考えすぎでした。彼女の携帯はテーブルの上で俺からの最後のショートメールを受け取るためにブルブル鳴ったあと、返事のメールを打ち込まれることなく、元の場所に静かに置かれたのです。
「誰からだった?」男の無粋な質問に彼女は「ん、友達っ」と無邪気に答えました。これで俺が今夜この部屋に訪れることはなくなったという、彼女にとっては非常に好都合な設定が完成してしまいました。男にとってはもっと好都合だったのかもしれませんけどね。
「さっきまで一緒に飲んでた真紀(仮名)ちゃん?」と男は質問。
「そうそう真紀。明日起こしてくれってメル来たの」と嘘をつく彼女。
会話から察するに、男2女2で飲んでいて、最終的には2:2に別れたらしい。
「なーんだ、じゃ起こさなきゃいけない陽子ちゃん(仮名。俺の彼女)も 早く寝なくちゃだめじゃん?」男の声が気のせいかイヤラシさを増したような…。
「だいじょぶ、だいじょぶ、私は平気。ワイン飲むと元気出てくるんだよね(笑)」
彼女は、俺からのショートメールで加速度的にこの男と供に一夜を過ごす方向へと傾き始めたみたいだった。
俺、このへんですでにはちきれんばかりに勃起してたと思います…(涙)
続く。