真夏の夜の夢2
2021/06/25
マサルはすべてを飲み干すとグラスを持って立ち上がり台所へと歩いて行く。
「あれ、マサル、少し背伸びた?」、私は自然を装うためではなく、本当にそう思い言った。
「伸びてないよ。もう、そうやって期待させてさ」
「うそ、伸びたよ。ほら、夏の前の身体測定どうだったのよ?」
「えー、聞いちゃうんだー。うーん、まあ、143だけど……。でもそれ春だからもう少しはあると思うけど……」、マサルはそう言うと照れ臭そうに前髪をいじる。
それじゃあ今は145センチくらいってところか。
それでも結構な進歩だ。
「クラスでまだ一番チビなの?」
「おい、チビとか言うなよ。まあ、まだね」、そう言うとマサルは扉の方へ歩いて行く。
「まだね」か。
私は訳もなくそれに共感していた。
「ほら、早く寝ちゃいなさいよ」、私は言った。
「はいほー」、マサルはタオルを拾い上げるとそれを来たときと同じように肩に掛け、部屋をあとにした。
ミサキがお風呂から上がり居間に入ってきたのはそれから五分もたたないうちのことだった。
ミサキは居間を一周確認するように眺め、マサルがもういないことを知るとさっきまでマサルが座っていたところに座った。
「どう、ねえ、うまくいった?」、ミサキは足をぶらぶらさせて最高の笑顔を見せた。
「ばっちりよ」、私は肘をテーブルにつけて得意げに言う。
「よーし!ついにここまで来ましたね、お姉さま」、ミサキはおどけながら言った。
こぼれそうな笑みとはこのことを言うのだろう。
それから私もお風呂に入り、そのあとは私もミサキもそれぞれ自分の部屋で待機するだけだった。
階段を上がりマサルの部屋の前を通った時、扉の隙間から明りが消えるのが見えた。
早くもお休みですね。
ちょうどそのとき時計の針は十時半を過ぎたところだった。
伯母が勤め先の熱帯魚ショップから帰って来たのは十一時頃だったと思う。
私はかけていたジャズ音楽のせいか半分夢の世界に入り込んでいた。
どんな夢だったって、それは女子高生にはあまり口に出せるようなものじゃなかったってのは確かね。
部屋に戻ってからずっとマサルのあれのこと考えていたんだし、だってさっきマサルを見ていたときに脇の毛すら生えていなかったのだもの、それじゃあ下の毛だってあやしいじゃない。
もし、そうだとするとあれにさわることになるのは私ってわけね……。
そんなことをぼーっと考えながら見た夢は、結構変態的な夢だった。
私はリモコンでソニーのコンポの電源を落とし、静かに廊下へと出る。
ミサキの部屋から枠淵に沿って明りがもれているのを確認し、そっと扉を開いた。
「ミサキ、ちゃんと起きてたの?」、私は小声で言った。
「あたりまえじゃん。だってさすがに寝られないよ、ねえ」、ミサキがそう言うと、私は少し恥ずかしかった。
「何時頃に決行?」
「決行」、私はその部分をなぞるように言い、そしてまた「決行」と言った。
「そう、何時頃?」
「そうねえ。今日はお父さんは帰って来ないから一時頃なら大丈夫だと思う」
「ラジャー!」、ミサキは片手を水兵のようにおでこへ添えて言った。
水色のパジャマを着たミサキは作戦決行前の水兵そのものだった。
「おねえちゃん、寝ないでよ」
「分かってるって」、そう言って私は扉を閉めた。
私は決行の時間までサンタを待つ子供のような気持ちでいた。
何度も廊下に出ては階段の下の様子を窺い、母たちが寝静まるのを今か今かと待ちわびる。
母たちが寝た後も、携帯を意味もなくいじくったり、マイルス・デイヴィスを一曲聞き終わりもしないまま、次にはB’zを流しているという始末。
パイプベッドに横になり高校の友達と撮った馬鹿げた写真を眺める。
すると、ある考えが頭を過った。
写真――カメラ……。
私は急いで先月買ったデジタルカメラを引き出しから取り出した。
これでマサルのあれを撮っちゃえば……。
いや、さすがにそれはかわいそうかも……、でもばれないなら……いや、でも。
私は少しの間自分の良心とぶつかりあった訳だが、結局予備の新しいメモリーカードをそれに差し込み、心臓は今にも弾みだしそうだった。
「お姉ちゃん」その声で実際私の心臓は数秒止まっただろう。
ミサキの声はマサルのとほとんど同じなのだ。
母でさえよく間違えるほどだ。
ミサキは扉をわずかに開き顔を突き出した。
「お姉ちゃん、そろそろいいんじゃない?」私は左手の携帯を開いた。
12:45。
確かにもうよいころあいだ。
「よし」、そう言い私はパジャマのポケットにデジタルカメラを押しいれた。
薄地のパジャマのズボンがカメラの重さでずり落ちそうだった。
廊下に出ると辺りは静まりかえり私たちの息遣いだけが微かに響く。
ミサキは私のパジャマの袖つかんで離さない。
シーっと人差し指を一本口の前に立てるミサキの顔が窓から差し込む月明かりに照らされる。
ミサキの興奮がそのイタズラに目を輝かす子供の表情から見て取れた。
そう言う私も心底興奮していたのだ。
「いくよ」、そう言うと私はマサルの部屋のドアノブに手を掛けた。
ドアからカチャっという小さな音が鳴る。
私はミサキと眼を合わせる。
ミサキの満面の笑みに私も思わずにやけてしまう。
二人でわずかに開いた隙間から部屋を覗くと、オレンジの豆電球が薄らと部屋を照らしていた。
ベッドの上で緑の掛け布団を抱くように寝ているマサルの背中が見える。
机には夏休みの宿題か何かが山のように積まれ、その横に学生鞄がくたびれたように口を開けたまま置かれている。
音が鳴らないように慎重にドアを押し開け、人が通れるだけの隙間をつくった。
なんだかスパイにでもなった気分だ。
「おねえちゃん、マサル、パンツ一枚で寝てるよ」、ミサキは小声で言った。
「好都合ね」、私はミサキにと言うよりも自分に言い聞かせた。
私たちがスッと隙間から入り込むと、ミサキがドアをやさしく閉める。
姉妹の連携は抜群と言える。
マサルの部屋の中は男の部屋の匂いってわけではないが、ムシムシする熱気が籠っていて、どこか私をさらに興奮させる匂いがした。
というのもその日はクーラーがついていなかったのだ。
部屋の隅には泥だらけのスパイクが無造作に置かれ、ベッドの下には脱ぎ捨てられたハーフパンツがだらんとしかれている。
この子、寝ながら脱いだのかしら、そう思っているとミサキはすでにベッドの方に一歩ずつ近づきだしていた。
その繊細な足取りを見ていると、まるで地面にわなでもしかけてあるのかと思ってしまうほどだ。
私もこの小さな水兵の続き、慎重に歩み始めた。
マサルは私たちに背中を向け、掛け布団をギュッと抱きかかえるようにして眠っている。
背中は豆電球のオレンジに照らされ、焼き立てパンのようにこんがりして見えた。
細い腕は日焼けのせいか他よりも濃いオレンジで、何とも言えないほどセクシーなかたちに折れ曲がっている。
もちろん、弟にセクシーなんて言葉は使いたくはないけど、このときばかりはそれ以外に表しようがないほどだった。
その先では小さな手がしっかりと布団を掴んでいるのである。
青地に赤色で何やら英語が印刷されたトランクスは、少しばかりマサルには大きく見えた。
そこからスラッっと伸びる足はこの子は本当に男の子なのだろうか、と考えさせるほど滑々しているようだった。
しばらく私たちはマサルを取り囲むようにして眺め、それから二人で眼を合わせ文字通り無音でこの興奮を示しあったのである。
私がマサルの顔を覗きこむと、微かに「スー、スー」という規則的な寝息が聞こえる。
子供が口開けて寝ていても少しも間抜けに見えないのはなぜか。
私がマサルみたいに寝ていたらさぞ滑稽だろう。
マサルの瞼はしっかり閉ざされ、それを包装するかのように長いまつ毛がびっしり覆っている。
これはかわいい……。
思わず声に出しそうになった。
きっとこの子はあと数年は小学生料金で電車に乗ることができるだろう。
私はそっとマサルの頬に手を当てた。
「お姉ちゃん」、ミサキが小さくささやいた。
私を注意する先生のようなその顔は、そんなことしたら起きちゃうよ、という注意なのか、それとも、お姉ちゃんばかりズルいと訴えているのか、私には分からなかった。
さて、あらためて、と私は自分に言い聞かせ再びマサルを見下ろした。
どこから処理していったらいいものか。
私たちはまず布団を抱くマサルの腕を解くところから始めた。
ベッドに片膝をつき、静かに指を一本ずつ広げていく。
マサルの手は汗ばんでいた。
一本、また一本。
その様子をミサキはマサルの足の方から興味深そうに眺めている。
手が布団から離れると、手首をそっと両手で掴み横へずらしていく。
一瞬、マサルの寝息が大きくなった気がして、二人ともその状態で制止した。
その時のミサキの顔ったら、眼をまん丸にして、子供のシーサーみたいなんで、そのせいで思わずマサルの腕を落としてしまいそうになった。
それからしばらく待ってその腕をベッドのわきにそっと置いた。
マサルは見事に仰向けになり、両手はだらんと横に広げられている。
だだ、あとは丸まった布団がマサルを縦に二分するように乗せられているだけだった。
ようし、そう心に呟き、私は上半身にかかる布団を、まるで宝を覆う布を取り払うかのように、そっと慎重に持ちあげた。
その間にミサキはマサルの右足に引っかかる布団を取り外す。
私はミサキの手際の良さに感心した。
そして、私たちは細長い布団の両端をそれぞれが持ち、それを床の上に危険物でも取り扱う業者のようにそっと置いた。
私たちは一瞬見つめ合い、そして再びマサルに視線を戻す。
マサルは文字通りパンツ一枚の姿でそこにいた。
無防備にも片膝を曲げ、口をぽかんとあけて寝息をたてている。
いたずらじみた八重歯がわずかに見える。
それは先ほどよりもいくらか深い眠りに入っているようだった。
あらためてマサルの体を眺めていると、やはりとても中学生の体格とは思えるものではなかった。
あどけなさが残るのではなく、まさに今この時にしてあどけない顔をしているのである。
「かわいい……」、今度は本当に小さく呟いてしまった。
ミサキは私を見て満面の笑みで頷く。
ありきたりな表現だけど、このかわいさは犯罪であろう。
最近はマサルの態度ばかり気になってよく顔を見ていなかったので、そのことをそれほど意識はしていなかったのだ。
確かに俗に言う美男子ではあったけど、そうゆう類とも少し違い、とにかく絶妙なかわいさなのである。
私はマサルのおでこに汗で張り付くくせ毛をそっとどかした。
ミサキはマサルの足首とふくらはぎを両手で支えまっすぐに整える。
もう一方の足も整え終えると私たちの作戦の第一段階は終了した。
股はわずかに開かれていたが、「大の字」というよりも「小の字」になっていた。
やはりマサルには「大」は似合わないわ、そんなことを思いながら滑々の腕をなでてみる。
少し湿り気はあるけど、そこには産毛すら感じられない。
ミサキも負けじと太ももをなで、私の方を振り向き笑う。
「やっちゃいますか」、私は静かにささやいた。
「ますか」そう言うとミサキはベッドに上がり股の間と左足の横にそれぞれ膝をつき、両手をパンツのゴムに添えた。
それは女子中学生が小学生を今にも犯そうとする瞬間に思え、私はズドンという衝撃を体に受けた。
やばい、この光景はやばすぎる……。
私はまだ彼氏とのセックスにも快感を覚えたことはないのだけれど、この光景にはさすがに下半身が緩むのを感じた。
ミサキは親指以外の指をしっかりそこに潜り込ませると、「では」、と声にならないくらいに言った。
私は体中汗で風呂上がりのようにぐっしょりだった。
眼の前でマサルのパンツが下ろされていく。
少しずつマサルの肌の色が薄くなるのが分かる。
股の付け根ほどのところまで下ろされると、それはオレンジの電球のもとでも真っ白に見えた。
すると、そこでマサルは胸を掻き始めたのだ。
私の心臓は爆発寸前のである。
マサルの様子を窺いながら、わずかにミサキはパンツを戻す。
ミサキの心臓の音が私にも聞こえてきそうだった。
どれくらいそうしていたのだろ、マサルは何事もなかったかのように口をポカンとし寝息を立てた。
再びミサキはパンツを引き始めた。
パンツのお尻側はしっかり固定され、ミサキは前だけをめくっているという具合だ。
どこまで引いても真っ白、本当にこの子にはちんちんが付いているのかとさえ疑問に思うほどだった。
私は思わず身を乗り出し顕微鏡をのぞく子供のようにその一帯、特にパンツの末端に視線を落とす。
腕やスネどころではないほどにそこは滑々しているようで、毛なんてこれっぽっちも見当たりはしなかった。
私は大きく唾を飲み込む。
きっとその音はミサキにも聞こえただろう。
それでも二人は何も話さず、音もたてず、ただその一点を見つめていたのである。
そのパンツの淵源からはただただ白い世界が延々と広がって行く。
そろそろか……、そろそろか……。
ついにその付け根と思えるものが私たちの視界に入ってきた。
幅で言うと本当に小指の付け根と見間違えるほどだった。
ついにきた……、ついに辿り着く。
私はゴール直前の長距離ランナーの気分だった。
それでも私たちは一言も発せずにその作業を続けていく。
さらにパンツが引かれていく。
少しずつ、少しずつ、その全貌が露わになっていく。
さて、これからだ、と思ったとたん、突然それは途切れた。
私たちはおそらく数分の間それを見つめていただろう。
それは……、だってそれはあまりに小さすぎたのだから……。
もっと長さのあるものだとばかり思っていたので、突然の終結に私たちは呆然としたのだ。
いくらなんだって中学生だよ……、だって、ねえ、それじゃあ私の小指何かよりも全然短いじゃない……。
私たちは無言でそれを見つめ、部屋には沈黙とマサルの寝息だけが漂っていた。