迫真の演技で・・・

2018/08/22

親戚の法事の関係で、週末に帰省してきました。
遊びではありませんので、土日で1泊してきただけです。
久しぶりに会った親戚の人たちと、たくさん話をしました。
自分でも憶えていない子供時代のことを聞かされたりして、懐かしいひとときです。
親といっしょに実家に帰ってきたのは夕方でした。
明日の午後には東京に戻って、また月曜の出勤に備えなければなりません。
夕食をすませて自分の部屋に入りました。
最近では、年に数回のペースで実家に戻ってきていますが・・・なんだか・・・戻ってくるたびに・・・私は普段、東京で一人暮らしをしています。
自分で言うのもなんですが、日々まじめに過ごしているつもりです。
でも・・・そんな私にも、人には言えない秘密があります。
いつも自分を抑えて生活している反動なのでしょうか・・・心の奥底に、無性に刺激を求めるもうひとりの自分が潜んでいるのです。
(誰にも知られずにどきどきしたい)
(あの興奮を味わいたい)ここ1年ばかり、帰省するたびにそんな気持ちになってしまう私がいます。
この日も例外ではありませんでした。
山奥の渓流での恥ずかしい体験・・・野天風呂での思い出・・・記憶をよみがえらせながら、気持ちがうずうずしてきます。
ひとたびこうなると、もう我慢できませんでした。
行きたくて行きたくて、仕方なくなります。
こうして帰省してきたときぐらいにしか、訪ねることのできないあの特別な場所・・・でも、今回は時間がありません。
明日の午前中のうちには、帰りの新幹線に乗ってしまうつもりでした。
(したい。)東京に戻れば、また変わり映えのしない日々が待っているだけです。
衝動に駆られました。
(また、ああいうことをしたい)むかし何度か行った市営プール?・・・でも、この時間からでは遅すぎます。
(そうだ)ふと、頭をよぎったことがありました。
(いつかの銭湯・・・)
(あそこなら)スマホで調べてみます。
1月に訪ねた、隣町の銭湯・・・(そうだった)偶然に居合わせた小学生の男の子に、(たしかS太くんといったっけ)どきどきしながら、はだかを見られたあの銭湯・・・土曜ですから、きっと今日だって営業しているはずです。
もちろん、わかっていました。
あんな都合のいいシチュエーション・・・そうたびたび巡り合えるものとは思っていません。
頭の中で計算していました。
(銭湯といえば)はるか昔の記憶がよみがえります。
(閉店後の従業員さん。)まだ地方都市で勤めていたころの羞恥体験が、頭をよぎっていました。
時間を見計らって家を出ました。
営業時間が『終わったころ』にタイミングを合わせます。
夜道を、ゆっくり車を走らせていました。
隣町ですから、そう遠くはありません。
もう雪は降り止んでいましたが、景色は一面真っ白でした。
前回来たときも雪景色だったことを思い出します。
しばらく運転していると、その『銭湯』が見えてきました。
駐車場に車を入れます。
トートバッグを抱えて車から降りました。
建物の入口まで行くと、もうノレンは出ていません。
・・・が、中に明かりはついています。
まだ鍵はかかっていませんでした。
おそるおそる入口の戸を開けます。
質素なロビー(?)は無人でした。
正面のフロントにも、もう人の姿はありません。
下駄箱に靴を入れました。
ここまではイメージどおりです。
下手にコソコソした態度だと、かえって不自然に思われかねない・・・そのまま堂々とロビーにあがってしまいます。
奥の『女湯』側の、戸を開けてみました。
戸の隙間から中を覗きます。
照明はついていますが、無人でした。
(どうしよう)ちょっと迷って、今度は『男湯』側の戸をそっと開けてみます。
(いる!)中の脱衣所に、掃除中(?)のおじさんがいるのが見えました。
一気に感情が高ぶります。
(どきどきどき・・・)まるでスイッチでも入ったかのように、(ど・・・どうしよう)気持ちが舞い上がるのを感じました。
(どきどきどき・・・)
(どきどきどき・・・)見ているだけで、なかなか行動に移せません。
目の前の実際の光景に、まだ覚悟が追いついてきていない感覚です。
そこから一歩を踏み出すのには、かなりの勇気が必要でした。
(どうするの?)もうあそこには、現実に男性がいるのです。
決断を迫られていました。
いまなら引き返すこともできます。
でも・・・悶々とするこの気持ち・・・(やろう)自分の演技力にかけようと思いました。
(だめなら、だめでしょうがない)無理だと思えば、その時点で諦めればいいだけのことです。
(どきどきどき・・・)遠慮がちな口調で、「あ、あの・・・すみません」ついに、そのおじさんに声をかけていました。
私に気づいたその男性が、『おやっ』という顔でこっちを見ました。
(ああ、この人)見覚えがあります。
お正月に来たときに、フロントにいたおじさんに間違いありませんでした。
あのときは、ずいぶん不愛想な印象でしたが・・・「はい、はい」どうしました?という顔で、近づいて来てくれます。
「あの・・もう終わりですか?」恐縮して聞いてみせる私に、「いちおう○時までなんですよ」もう営業時間が終わったことを教えてくれます。
客商売ですから当然といえば当然のことですが・・・このおじさん、愛想はちっとも悪くなんかありません。
「そうですか・・・もう終わり・・・」がっかりした顔をしてみせると、「まあ、でも」おじさんは、ちょっと考えるような表情を浮かべてくれました。
あ・・・(チャンス。)すぐに気づきました。
(見られてる)瞬きなく私をじろじろみつめるおじさんの目・・・私は、男の人のこの『目』の意味を知っています。
それを察した瞬間から、心の中で密かに手応えを感じていました。
大丈夫・・・きっと引き留められるはず・・・あえて帰りかけるふりをしようとする私に、「せっかく来てくださったんだから」
「まあ、いいですよ」
(やっぱり来たっ!)
「よかったら入っていってください」
『えっ?』と驚いた顔をしてみせて、「いいんですか?」半信半疑の面持ちを向けてみせました。
(よしっ!よしっ。)本当は、迷惑なんじゃ・・・表面上そんな戸惑い顔をつくって、おじさんの表情を確かめるふりをします。
「はいはい、どうぞ」・・・本当にいいのかな?そんな遠慮がちな仕草で、ちょっとおどおどするふりをしつつも、「ありがとうございます」嬉しそうに、お礼を言いました。
日頃鍛えた業務スマイルで、『にこにこっ』としてみせます。
私ももう、そんなに若いわけじゃありませんが・・・この田舎のおじさんから見れば、まだまだ今どきの『若い女の子』です。
(・・・この人)この目の動き・・・(・・・絶対そう)私は、しっかり見抜いていました。
このおじさんは、女の子に弱い・・・というか、完全に甘いのです。
はにかみながら、「じゃあ・・・すみません」私が『にっこり』微笑んでみせると、「いえいえ、いいんですよ」ますます愛想のいい顔になっていました。
(きっと、うまくいく)演技を続けました。
「あ・・じゃ、お金」私がトートから財布を出そうとすると、「あまりお見かけしないけど・・・」
「このあたりの方?」しゃべりながら、フロントのほうへと促されます。
「いえ、東京からちょっと用事で」適当に言葉を濁しながら、千円札を渡しました。
「どうりで見ない顔だと思った」
「いっつも、ばあさんしか来ないもん」返答に困ったように首をすくめてみせると、「はい、おつり」楽しそうに小銭を返してくれます。
こうしてしゃべってみると、何も特別なことはありません。
そう・・・よくいるタイプの中年おじさんでした。
若い女の子を相手にするのが嬉しくてしょうがないという感じです。
そして・・「途中で片づけに入らせてもらうかもしれませんけど」
「ごゆっくりどうぞ」さりげなく付け加えられたその一言に、(来たっ)心の中で電気が走っていました。
自分でも怖いぐらいに、『思いどおり』な展開です。
無垢な女の子になりきっていました。
最後まで遠慮がちな感じで、「それじゃあ・・・すみません」
「ありがとうございます」精一杯のはにかみ顔をつくってみせます。
背中におじさんの視線を感じながら、女湯側の戸を開けます。
中に入って、静かに戸を閉めました。
(どきどきどき・・・)胸の鼓動が収まりません。
(やった)ここまでは完璧でした。
自分でも信じられないぐらいに、狙いどおりの展開です。
とんとん拍子すぎて、かえって現実感がないぐらいでした。
(あのおじさん。)途中で入ってくるかもしれない・・・あのせりふは、たぶん布石です。
間違いなく来るはずだという確信がありました。
(どきどきどき・・・)今日に限っては、運頼みなんかじゃありません。
自分の力でつかみとったチャンスです。
そう思うだけで、異様なほどの高揚感がありました。
貴重品をミニロッカーにしまいます。
誰もいない脱衣所に、私ひとりだけでした。
服を脱ぎます。
『かもしれない』なんかじゃない・・・(きっと来る)私の勘がそう言っています。
脱いだ服を畳んで、手近な脱衣カゴの中に入れました。
下着も脱いで全裸になります。
「ふーっ」息を吐いて、気持ちを落ち着かせました。
(だいじょうぶ)ここは銭湯です。

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