彩子との遠距離恋愛[シーズン2]
2018/04/29
―――2002年春
彩子は長い休みになるとこっちに帰ってきていました。
今年の正月休みの時も、26日までは実験が長引いているからと、28日に横浜に戻ってきました。
正月休みは15日位まであるようでした。
俺の仕事は年末が忙しく、11、12月は殆ど休み無しだったので、ちょうどよくって。
11月のはじめ以来会えなかったんで楽しみでした。
忙しいと電話はなかなか出来ませんでした。
最近はメールを中心に連絡していました。
山下は話しやすい奴でした。
「殴ってくれ」と言われましたが、殴りませんでした。
何度も頭を下げて、「もう酒を飲んで彩子さんに近づいたりはしない」と言っていました。
俺はなんか自分のほうが悪いような、恥ずかしいような感じがしました。
次は無いと念を押し、俺は帰りました。
山下は「実験の引き継ぎが終わり次第、彩子さんとは話をしない」と言っていました。
最後は新幹線のところまで送ってくれて、またそこで頭を下げてました。
俺が山下と話した後、彩子も俺に謝って、もうしないと言いました。
「お酒も飲まない」と言いました。
賢くって、いつもは年下なのに俺より鋭い意見を言ったりする彩子が俺に怯えてました。
一週間もするといつも通りの彩子に戻りました。
電話も楽しそうにかけてきました。
毎日メールをくれました。
今まで以上に俺にべったりになりました。
それも彩子の強さだろうと思いました。
俺も気にしないようにしようと思いました。
28日は無理やり午後休を取りました。
課長に怒られました。
家に帰って着替えて、車で新横浜に行きました。
4時半ころ駅前の大通り近くの駐車場に止めました。
5時半待ち合わせでした。
彩子はちょっと遅れて、駐車場まで走ってきました。
「ごめんねーやーーーきゃーー久しぶりだー」
白いセーターで、赤のチェックのシャツでした。
前髪がちょっと伸びてました。
昔は首筋が見えるのがヤダといっていた髪を上げて、ポニーテールよりちょっと上のほうで纏めてました。
ちょっと茶色になってて、色の白い彩子は黒の方が似合ってると思いました。
そのあとで二人でラーメン博物館に行きました。
名前は覚えてませんが一番下の一番右側のお店に行きました。
彩子はいつもよりお喋りでした。
俺も仕事の話とか友達の話を沢山しました。
今度いつかカレーの方にも行こうという話になりました。
休みの間にズーラシアと、それから近場に出来たショッピングモールに行くことになりました。
その日はすごく楽しかったです。
年が明けてお正月になって。
元旦以降の俺の休みの時に遊びに行くことにしました。
高校の時の同級生と言うのは、俺の後輩でもあったので俺も話を聞いてて楽しかったです。
29日、30日とその子の家に泊まって、大晦日は家族と過ごすそうでした。
俺は彩子とやっていなかった今年のクリスマスをやりたかったので、元旦にお正月を兼ねてプレゼントを渡そうと思ってました。
彩子が帰ってきた夜ですが。
山下との事ですが、やっぱり幾つかは詰問してしまいました。
気持ちよかったのかどうか、それ以降連絡はあるのかどうか。
気持ちよかったかと聞くと、彩子は激しく否定しました。
酒に酔っていてよく解ってないともいいました。
それ以降の連絡についてですが、幾度か声は掛けられたものの実験の時も殆ど話してはいないそうです。
その日、彩子はサービスがよくって。
フェラの時、唾を垂らしながらやってくれました。
何度も好きと言ってくれました。
28日は夜家に返しました。
29・30日と友達の家に行くらしかったので。
でもやっぱり声が聞きたいと思いました。
近くにいるというだけでちょっと贅沢な気分になっていたかもしれないです。
彩子は電話をくれました。
「今ねー、このみの家でねー。楽しいの」
楽しそうでした。
明日も泊まるとの事で、このみちゃんは「先輩彩子は預かった!!」とか言ってて。
楽しそうでした。
「早く俺に返してねー」と言うと、このみちゃんも「明日も連絡させますので!」と余計な気を回したようでした。
30日は仕事忙しくって終わったのが12時半頃でした。
もう寝たかなと思って、電話はしないでおこうと思いましたが、今日の着信履歴の中にこのみの家があったので。
1時頃でしたが電話してしまいました。
彩子のは圏外でしたので、このみの携帯にかけました。
「あ、もしもし。スイマセンこんな夜中に。電話入ってたからさ。彩子いる?」
「え?あー先輩!んー彩子ですか?寝ちゃってるから。出れなさそう。お仕事今終わられたんですか?」
「あ、うん。忙しくって。春になれば落ち着くんだけどね」
「ふーん。先輩彩子となんかありました??」
「ん?なんも。なんか言ってた?うーん。まあ、ちょっと向こうであったんだけどね」
「ちょっとね。彩子悩んでたみたいなので。でも、先輩愛されてるっぽいですよー」
「ははっじゃあ、彩子起きたら明日夜にでも電話くれって言っといてください」
って言って、電話を切りました。
彩子には、繋いでくれませんでした。
なんか。
やな感じがしました。
いつかあったような。
結局彩子は単にこのみの家で眠ってしまっただけのようでした。
でも、なんか嫌な感じがしました。
こういう時なんか俺はストーカーのような気持ちになるようです。
彩子を縛りたいというより、監視したいと言うような。
俺はやっぱりあの時のことで、彩子を信用しきれてはいないのかも知れないと思いました。
正月が過ぎて、初めて会った時に、初めて彩子を裏切りました。
遅いクリスマスプレゼントに彩子には、紺色のベルトの時計をあげました。
忘れてしまってると思ってましたが、彩子は俺に香水をくれました。
『SAMURAI』とかいう名前の爽やかでいい匂いの香水でした。
初めて彩子を裏切りました。
喫茶店で彩子がトイレに言った時に、手帳を見ました。
手帳は彩子の性格そのままに、質素な感じの黒い手帳でした。
去年の4月から今年の4月までの手帳でした。
手帳にはあまり文章らしいものは書いておらず、シールと単語だけが書いてありました。
毎月2枚ほどと、今日の所には赤いシールが貼ってあり、「やっくん!」と書かれていたので、俺と会うときはその赤いシールなんだと思いました。
青いシールもありました。
見なければ良かったと思いました。
青いシールのところには単語は何も書いてませんでした。
去年の7月辺りから毎週2枚ほど貼られていました。
大抵第1週と3週の土日、第2週と4週には月曜日と水曜日のところに貼ってありました。
12月には、24日と25日に貼ってありました。
多分、山下が約束を守らなかったんだと思いました。
それまでは、彩子と山下のことを思い出して興奮することは余りありませんでした。
でも、その手帳を見て、青いシールが7月から貼ってあったとき、逞しい山下にあの華奢な彩子が突きまくられていた映像と、彩子の喘ぎ声を思い出しました。
その思い出と、俺の興奮が、繋がりました。
物凄い焦燥感が襲ってきて、目の前がくらくらしました。
コーラを飲んで、落ち着こうとしました。
心臓の重い感じが、なくなりませんでした。
俺は、興奮していました。
彩子が帰ってきて、手帳を出して聞いてみました。
彩子は最初、認めませんでした。
俺は、理詰めで聞いていきました。
何故、俺と会う第2週と4週に必ずといっていいほど貼ってあるのか。
何故、毎週2枚、必ず貼ってあるのか。
何故、12月24日に貼ってあるのか。
何故、彩子の誕生日の10月15日に貼ってあるのか。
何故、毎日俺と電話していたのに、俺はその、週に2回あるシールを貼っておくほどの彩子の習慣のことに何一つ思い当たりが無いのか。
何故、大阪でだけでなく、横浜にまだいるはずの明後日にシールが貼っているのか。
彩子は俯きながら、話すと言いました。
喫茶店では話しづらいというので、車の中で話すことにしました。
いっつもお話する公園の横の駐車場で。
あの後も、彩子と山下は続いていたと聞かされました。
彩子は泣きそうになっていて。
俺は心臓が痛くって。
興奮していました。
久しぶりに笑いそうでした。
俺が「俺と別れるつもりなのか」というと、泣き出して嫌だといいました。
「山下と切れるのか」というと、黙って、俯いて答えませんでした。
汚れてしまっているから俺から振って欲しいと言われました。
俺には彩子しかいません。
別れたくありませんでした。
彩子に「別れたいのか」と聞くと、嫌だといいました。
彩子に「山下と切れるのか」と言うと、答えませんでした。
でも俺とは絶対に何時になっても別れたいなんて思わないと言いました。
2時間くらい話していて。
頭がパニックになっていて。
怒りと焦燥感で。
でも多分冷静にその条件でどうすれば俺が納得できるのか考えていました。
彩子に、これからも一緒にいたいと言いました。
条件をいくつか付けました。
これまでの事を全て話せと言いました。
学校を卒業したら横浜に帰って来いと言いました。
今まで以上に必ず俺に愛情を持っていることを表現しろと言いました。
それで、今まで通りに付き合おうといいました。
彩子は首を振って言いたがりませんでしたが、全て嘘偽り無く教えないとそのときこそ別…