「人の男に手ぇ出しやがって…」

2018/04/11

バレンタインになると思い出す自分的修羅場を流れも読まずに投下。
前置きも全体的にも長い上分かりにくいかもなので初めに謝っとく。
ごめん。
その当時大学生だった私は某ファーストフード店でアルバイトをしていた。
高校生のときから始めていたので3年目くらいだったが、その店は私が勤めているその3年間で4人も店長が代わるくらい、人事の入れ替わりの激しい店でもあった。
大体の店長はみないい人だったのだが、3年目の冬に別の店から異動してきた店長に関しては、ヘルプできていた他店の子から、様々な噂が流れてくるくらい少し変わった人だった。
噂といっても「奥さんがちょっと精神的におかしくて病院に通ってる」とか
「前の店でアルバイトの高校生と浮気をしていたから異動にさせられた」とか
「そのアルバイトの子に奥さんが店で包丁突きつけて大騒ぎになった」そういう
噂に尾ひれがつきまくって大げさになったようなものばかり。
大学生でサークル活動が忙しくなり、週2回ほどしかシフトに入っていなかった上に、夕方からの勤務が多かった私には、昼間勤務の店長との絡みも無く、彼が異動してきてその年のバレンタイン、昼間サークルだった私は、サークルのメンバーに配った義理チョコの余りを持ってバイトへ向かっていた。
バックヤードに入ると、珍しく夜の勤務の時間にも関わらずその店長が居て発注などをしている。
珍しいなぁと思いつつも挨拶をして、制服に着替え、シフトが始まるまでの短い時間を、パソコンに向かう店長の後ろでぼんやりと雑誌を眺めていた。
そこで、私はふと余った義理チョコの存在を思い出して紙袋から取り出し、店長に声をかけた。
「すみません。今日バレンタインデーでいつもお世話になっているのでこれ、良かったらどうぞ」本当はあげるつもりは無かったんだが「ありがとう」と店長も何事も無く受け取ってくれた。
昼間のシフトはフリーターの男の人ばかりだから、今年貰ったのは私からだけだとか、なんだか嬉しそうに言うので、「いつもお世話になってるからです。シフトあまり入れなくてすみません。」など、たわいも無い話をしてから、時間が来たので仕事に入った。
携帯におかしな着信が来るようになったのは、その次の日からだった。
まずはとりあえず非通知で無言。
こちらが何度声をかけても返事をしない。
でも誰かが聞いている雰囲気はあるので「やめてください」と電話を切ると、また直ぐ電話がかかってくる。
非通知拒否をすればよかったのは重々承知なのだが、大学のサークルの関係上非通知でかかってくる電話もあり、残念ながら対応することが出来なかった。
悪戯電話に出られないときは留守番電話にAVの女の人の音声が延々と入っていたり、なんだか荒い息遣いが入っていたりと、気持ち悪い思いをする日が続いた。
ある日の朝もその非通知着信で目が覚めて、寝ぼけ半分に電話に出たところ、やっぱり無言。
「…なんなんですか?」今まで直ぐに無言だと分かったら電話を切っていたのだが、寝起きのため冷静な判断が出来ず、思わず不機嫌を思いっきり全面に押し出して声をかけたところ、数秒の無言の末に「……おはよ。」と言われて電話を切られ、まさに寝起きだった自分の行動をまるで見られているかのようで流石に怖くなった。
彼氏と居る時に電話がかかってきたこともあり、事情を知っていた彼氏にその電話に出てもらったりもした。
その日は荒い息遣いの日だったらしく、彼氏が声をかけた瞬間電話は切れたらしい。
それから暫く電話がかかってこなくなったので、少し安心をしていた。
しかしまた一週間くらいたつと悪戯電話が再開した。
サークル関係に関しては用事があれば留守電に吹込みがされる為、非通知は電話を取らず留守電にする、ということを実践して対応をしていたが、悪戯電話に関してもどんどん留守電の吹込みがされ、今度は荒い息遣いとかではなく、多分洋楽のぎゃんぎゃん響くタイプのパンクロックの音楽などが延々と留守電に録音されるようになった。
また何を言っているか分からない叫び声なども吹き込みされ出し、これはもうサークル関係の事情などあきらめて、非通知拒否にしようと考えていた。
けれど私もいい加減、その無言電話に怒りはたまっていたし、最後に一言言ってやろうと、かかってきた非通知着信を取って無言であることを確かめてから携帯の向こうへと、怒りをぶちまけてしまった。
「いい加減にしろ」とか「何考えてんだ」とかもっと汚い言葉をいっぱい使ったと思う。
それでも反応の無い無言電話に諦めて切ろうとした瞬間に、ボイスチェンジャーでも使っているような声で、「今からお前の家にいってやる、お前の家は知ってるんだからな!」と叫ばれて向こうから電話を切られた。
これからバイトに行く予定だった私は怖くなったが、家族に誰が来ても出ないように伝えて家を出た。
その日のバイト中、バイト先の電話が鳴った。
発注のミスかと思いきや電話に出てみれば、あのボイスチェンジャーの声だった。
「S(私)はいるか?」と聞かれ、咄嗟に「居ない」と応える私。
一旦電話は切れたが、また直ぐ、今度は私の携帯に着信があった。
本来であればバイト中は携帯に触れないのだが、一緒にシフトに入っていた男の子の許可を貰い、新しく登録された留守電を聞いてみるとやっぱり何を言っているか分からない叫び声。
但し、今回は途中で「人の男に手ぇ出しやがって…」という一文が聞き取れた。
他のバイトの子に聞かせても明らかにそう言っていると言う。
しかし人の男を取った記憶など全く無く、バイト先の子達に「いい加減何処かに相談すれば?」という言葉に頷いて、その日は帰宅した。
帰宅して家族に聞いても誰も来なかったとのことで、凄く安心をした。
けど、無言電話の相手について、一つ分かったことがある。
恐らく犯人は、私がそのファーストフードに勤めているということを知っている人間だ。
ある日、いつものように夕方バイトに向かっていると、店の前に着いたところで夕方まで勤務しているパートのNさんから電話があった。
「S(私)ちゃんっ?今どこっ?」
「え、店の前ですけど」
「来ちゃ駄目、絶対に店に入らないで!」あまりに尋常じゃない声に、思わず店の前で立ち止まりNさんに問いかけた。
「何があったんですかっ?」
「あのね…きゃー!」という叫び声と共に電話が切れる。
強盗かと思い、逃げろと言われたにも関わらず店に飛び込んでしまうと、レジのところに立っていたのは強盗には似つかわしくない真っ赤なコートを着た女の人だった。
その向こうでNさんがうずくまっている。
「Nさん!」思わず叫んでNさんの元へ駆け寄ろうとしたところで、その女の人がゆっくりこっちを振り向いた。
その表情はあまりにも生気の篭っていない顔で、ニタニタと笑っている。
目が合った瞬間にその表情から想像も出来ないほど気持ち悪い優しい声で尋ねられた。
「…Sさん?」
「はい、そうですけど…」返事をした瞬間にその女の人の表情が一変した。
レジにトレーが並べられているのだが、突然それを掴むと、目を見開いて私のほうへ向かって何枚も投げ出した。
殺傷能力は無いが、当たれば痛い。
回転しながら飛んでくるいくつものトレーから逃げつつ、私はレジの中に入ってNさんの元に駆け寄った。
丁度休憩中だったバイトの男の子が物音に気づいて慌ててバックヤードから出てきてくれて、その女を取り押さえ、「とりあえず警察!」といわれた為に、私はNさんを抱えるようにして二人でバックヤードに逃げ込んだ。
とりあえず警察に連絡をして直ぐ来てくれるとのことでお願いをして、その後店長にも連絡をした。
帰宅途中で、店の近くの本屋に居たという店長も直ぐ戻ってきてくれるとのことでバックヤードに泣いているNさんを残し、とにかくお客さんが店に入ってこないようにしようと私は一旦レジのところへ戻った。
男の子に押さえつけられて諦めたのか、腕をがっしりと掴まれた状態で女性は店の椅子に座っていたが、うっかり私と目が合ったところでキッと睨まれて、店中に響く声で叫ばれた。
「泥棒ネコ!」まさか、現実世界で昼ドラみたいな罵声を聞くことになるとは思わなかった。
でもやっぱり全く身に覚えが無いため、とりあえず自動ドアがあかないように閉めに走る。
偶然店内にお客さんは一人もいなかった。
お客さんの迷惑にはならなかった。
数分の後、到着した店長が裏口のドアから入ってきた。
バックヤードを抜けて店内に入り、その女性を見た第一声が「K…」という女性の名前。
お気づきの方もいると思うが、その女性は店長の奥さんだった。
「なんでこんなことしたんだ!」という店長の声に奥さんも負けじと声を張り上げる。
「貴方がそこの女と浮気してるからふじこふじこ!」
「そんなことして…

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