妻と見た夢[前編]

2018/03/31

高校の2年の時、同じクラスになったのを切欠に付き合い始め、21歳の時に妻が妊娠。
妻は短大を出て働いていましたが、私は学生だったので親に無理を言ってお金を借り、入籍して一緒に暮らし始めて早や25年。
当時妻は妊娠、出産、育児と慌しく、私もまた学生を続けながら休日や夜間はバイトをし、就職活動、就職と忙しい日々で、甘い新婚生活とは程遠い暮らしを送っていました。
その後もすぐに2人目が出来た事で、ずっと子供中心の生活を送ってきたのですが、子供達が大きくなるに連れて2人の時間も増え、昨年下の息子が私達の手を離れて2人だけの暮らしになった頃には、当時出来なかった事を取り戻すかのように休日には2人で出掛け、平日の夜も時間の合う日は仕事帰りに待ち合わせて、食事をしたりするようになりました。
夜の生活も若い新婚夫婦のようにはいかないまでも、月に1度するかしないかに減りつつあったのが徐々に増えて、週に1度はするようになっていて、他の日でも眠る時にはどちらからとも無く手を繋ぐなど、周りの人には恥ずかしくて言えないような生活を送るようになっていました。
特に妻は完全にその気になっていて、セックスの時以外はしなくなってしまっていたキスを度々せがんで来るようになり、私はその度に妻を強く抱き締めてそれに応え、そんな妻が可愛くて仕方ありません。
ところが2人だけの暮らしになってから3ヶ月ほど経った頃、会社から帰ると玄関に男物の靴が置いてあり、それを境に妻が徐々に変わっていってしまうのです。
「近藤と申します。図々しくお邪魔してしまって、申し訳ございません」
私は彼と初対面でしたが、初めて会ったような気がしません。
それと言うのも、妻は役所に勤めていますが彼とは1年前から同じ課で働いていて、妻の話によく出て来ていた男だったからです。
確か年齢は私達よりも10歳下で、子供が2人いると聞いたことがあります。
2人は深刻そうにしていたので私は席を外しましたが、彼が帰った後の妻の話によると、彼の奥さんが浮気をして子供を連れて実家に帰っているので、その相談に乗っていたそうです。
「離婚は決まっているのだけれど、条件で揉めているらしいの」
その後の妻は頼られたのが嬉しいのか、彼に没頭して行ってしまいます。
「今夜待ち合わせて、映画でも観ないか?」
「ごめんなさい。近藤君が苦しそうだから、今夜愚痴を聞いてあげようと思って」
それは平日だけでなく、世話を焼けなくなった子供達の代わりを彼に求めているかのように、休日までも会うようになって行きましたが、年齢が離れている事や彼と会う時は私に必ず言っていくことから、浮気などは全く疑いませんでした。
しかしそれは、次第に後輩の相談に乗ると言う範囲を超えていきます。
「今日は彼の家に行って、食事を作ってあげたの」
「一人暮らしの、男の家に行ったのか」
「もしかして妬いているの?彼とは10歳も違うのよ。私のようなおばさんを相手にする訳が無いじゃない。外食ばかりだから、たまにはと思っただけ」
あまりに明るく笑う妻を見て、少しでも疑った自分を恥じましたが、そのような事が1ヶ月ほど続いた頃、妻の口から彼の話が出る事はピタリと無くなりました。
「近藤君はどうしている?もう相談に乗らなくても良くなったのか?」
「話が拗れていて、専門家に頼んだみたい。そんな暇も無いらしいから」
しかし妻は、残業になったとか友達や同僚と食事に行くとか色々な理由をつけて、私と待ち合わせて食事をする事もなくなり、帰宅時間もかなり遅くなる日が増えたのです。
勿論今までにも友人と食事をして来るぐらいの事はあり、残業で遅くなる事もあったのですが、このように頻繁に遅く帰る事は初めてで、私は心配で仕方がありません。
出産育児で若い時に遊べなかった妻を可哀想に思っていた私は、妻が楽しければ遅くなる事は構わないのですが、その頃から元気が無くなり、時々何か考え込んでいるようだったので心配になったのです。
「あなた。私のこと好き?私はあなたが大好きよ」
「急にどうした?最近何か変だぞ」
休日も私と話しているときは笑顔なのですが、注意して見ていると、時々家事の手を止めて考え込んでしまうなど、明らかに妻の様子が普通ではありません。
しかし相変わらずセックスもあり、キスをせがんで来るのも変わらなかったのでやはり浮気などは疑いませんでしたが、妻を注意深く見るようにはなりました。
「何か心配な事でもあるのか?」
「どうして?何も無いわよ」
いつも妻は微笑みながら答えますが、無理に笑顔を作っているのが分かります。
「明日、典子と恭子が旅行の相談に来るの」
この2人は妻の高校の時からの親友で、同級生だった私も勿論よく知っていて、私達に影響された訳でも無いのでしょうが2人共結婚が早く、3人の内の一番下の子供が高校を卒業した昨年から、安い旅館や民宿などを探して3ヶ月に一度は旅行していました。
その旅行が来週末に迫っていて、比較的近くに嫁いでいる2人はその打ち合わせに来るとの事なので、私はこの旅行が良い気晴らしになって、元の妻に戻ってくれる事を期待したのですが、この時は楽しそうに話していた妻も、旅行から帰って来ると更に元気が無くなり、私を避けるようになってしまいます。
「今夜いいか?」
「ごめんなさい。旅行の疲れがとれなくて」
妻が離れていってしまうような気がして連日誘うと、妻の答えは同じなのですが、疲れていると言いながらも遅く帰るのは変わりません。
「旅行の清算もまだなので、明日は典子達と食事をして来るので遅くなります」
会って食事をしてくるのは構わないのですが、今までなら全て旅行の帰りに清算していて、帰って来てから清算するなど聞いた事がありません。
「本当に典子さん達と会うのか?」
疑われた妻の気持ちを考え、妻に限って浮気は有り得ないと打ち消していた私も、流石に疑う様な言い方をしてしまいました。
「本当よ。他に誰と」
私は妻に明るく笑い飛ばして欲しかったのですが、妻は小さな声でそう答えた後、辛そうな顔をして俯いてしまいます。
「今夜はどうだ?」
そのような妻を見ていると更に心配になり、疑念を振り払いたくて誘ってみると、意外にも妻は首を縦に振ったのですが、今度は私がその気になれません。
それと言うのも、気の弱い私は嫌な方へ、嫌な方へと考えが向かってしまっていたのです。
妻はあれからも近藤と会っていて、既に体の関係もあるのかも知れません。
初めて私以外の男を知った妻は、彼に溺れてしまっているのかも知れません。
最初は私以外の男に興味があっただけの妻も、何度も抱かれている内に心まで奪われてしまったので、私に疑いを持たれる危険を冒してまで、連日のように会いたいのかも知れません。
そう考えると、私が疑っていると感じて誤魔化す為にOKしただけで、本当は私とセックスなどしたくないのかも知れません。
完全に妄想の世界に入ってしまっていた私は、彼が白くて小柄な妻を組み敷いている姿までもが浮かび、自分の勝手な妄想で勃起する事は無く、吐き気まで催してしまう有様です。
結局妻とセックスが出来ず、口では心配してくれているような事を言ってはいても、すぐに眠ってしまった妻が腹立たしくて眠れません。
やはり妻の愛を確認したいのと、自分の妄想が間違っているのを確認する為に、夜中に妻を起こしてまた事に及んだのですが結果は同じで、更にイライラは募ります。
しかし朝になると、不思議と夜考えていたほどの深刻さは無くなり、やはり妻に限って私を裏切る事など有り得ないと思えたのですが、また夜になると同じような苦しみを味わうのではないかと思い、妻に限って有りもしない妄想に脅えて、このまま夫婦が壊れていく恐れがあるのなら、無駄になるのは分かっていても、確かめて自分に納得させた方が良いと思いました。
確かめると言ってもプロに頼むような大げさな事では無く、妻が典子さん達と会うのを一目確認出来れば、私は元の私に戻れるのです。
その日の午後に、入社以来始めて仮病を使って会社を抜け出した私は役所の前で張り込んでいて、沢山の人が出てくる中に妻の姿を見つけ、駅に先回りをしようとした時、有ろう事か妻は駅とは反対の方向に歩き出しました。
当然電車に乗って繁華街で会うと思っていたのですが、妻が歩いていく方向は私の知る限り寂れていくだけで、気の利いた店もありません。
何より典子さんや恭子さんが、車で来ない限り不便で不思議に感じたのですが、それでも妻を信じたくて、この方向に私の知らないお洒落な店でも出来て、そこで待ち合わせているのだと自分に言い聞かせながらついて行くと、妻は五百メートル以上歩いた所にあった、コンビニの駐車場に止まっていた車に乗り込んでしまいます。
私は典子さんか恭子さんの車だと思いたかったのですが、それならこれ程離れた所のコンビニで待ち合わすのは不自然で、何より妻が乗り込む寸前、辺りを見渡す仕草を見せたのが気になり、車のエンジンがかかった瞬間、気が付くと両手を広げて車の前に立ちはだかっていました。
やはり運転席にいたのは近藤で、助手席の妻は顔面蒼白になって固まってしまいましたが、彼は躊躇する事無く降りて来ます。
「奥さんには、いつもお世話になっています」
私には、いつも妻の身体の世話になっているとも聞こえ、思わず胸倉を掴んでしまいました。
私は昔から手が早く、昔を知っている友人達は、まさか私が気の弱い男だとは想像もしていないでしょうが、本当は緊迫した場面にい…

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