子供が欲しかった同級生・ひとみ

2018/02/22

数年前の出来事・・・。
その日、俺は平日だが代休のため休みで、その休みを利用して普段なかなか行けない銀行や郵便局などへ行き、色々と用事を済ませていた。
3年前に31歳でやっと結婚をしたのだが、4歳下の嫁さんも働いている為、やはり平日の昼間という時間帯は制約されてしまう。
ホント金融機関は何かしようとしても平日の昼間のみに制限されてしまうのが不便である。
子供はまだだが、そろそろと考えているので、余り無駄遣いはしたくないものの、どうしても食事に関しては面倒だと外食してしまうのである。
その日もそんな感じで午前中に用事を済ませ、昼飯を近所のファミレスで済ませようとした時だった。
突然「あっ!」と言う声が耳に入り、その声の主の方を見ると、一人の女性が立っていた。
スラッと背が高く、ボディラインはモデル並み、顔立ちはかなりのもので、ストレートヘアーが綺麗でよく似合った年の頃で言えば30前後の美人が、そこに俺の顔を見つめ立っていた。
そして・・・。
「S君・・・だよね?」
唐突に自分の名前を聞かれ、正直驚いた。
こんな美人、知り合いにはいないぞと・・・きょとんとしている俺を見て、彼女はすぐさま・・・。
「私!山村!山村ひとみ!小中学校で、一緒だった!中学は同じクラスでっ!」
ニッコリと微笑んで、『ほらっ私よっ!』と言わんばかりな仕草で身元を明かした。
俺は名前を聞いた途端、誰かすぐに思い出した。
「あーっ!山村ひとみ・・・ちゃん!?」
『ひとみ』の後をなんて呼ぼうか一瞬悩んだ。
と言うのも、当時、彼女に限らず女の子達は全て『◯◯さん』と呼んでいたからだ。
当時は照れ臭くて『◯◯ちゃん』なんて呼び方が出来なかったが、今はあえて、そう呼んでみた。
すると「そう!そう!」と、自分の事を思い出してくれて凄く嬉しいという様な満面な笑みを浮かべた。
俺も久しぶりに会う中学以来の同級生に嬉しく、思わず半歩下がって、軽く両手を広げて、まるで外国人が久しぶりに会う友人を迎える仕草の様に、彼女の全身を上から下まで改めて見てると、彼女が突然両手を目一杯広げて「久しぶりぃ~♪」と言いながら抱きついてきた。
いわゆるハグってやつだった。
突然の事で俺はちょっと驚いたが、昔からこう言う感じの彼女だったので、俺も彼女に合わせて両手を背中に回して軽くポンポンと叩いて、再会を喜んだ。
その時、彼女の胸の柔らかい膨らみが服越しでも十二分に分かりドキッとした。
「いやー久しぶりだねぇ~今から食事?」と尋ねると「うん、そう」と無邪気に答える顔は、昔の彼女そのものだった。
「一人?誰かと待ち合わせ?」
「ううん、一人だよ」
「そう、良かったら一緒にどう?」
「うんっ!一緒する♪」と、これまた嬉しそうに答えた。
入り口の一枚目のドアを開け、彼女を先に中へ入ってもらうようにすると、ちょっと照れたように「あ、ありがとう・・・」と答えた。
レディーファーストを心掛ける俺は、自然と二枚目のドアも同様に開けて彼女を店の中へ入れる。
店内に入るや直ぐにウェイトレスが「二人様ですか?」とお決まりの台詞で尋ねてきたから「そうだ」と答え、「おタバコはお吸いになられますか?」と、これまたお決まりに聞いてくるから、俺は「俺は吸わないけど、ひとみちゃんは?」と尋ねると、「私も吸わないよ~」とニコニコと答えた。
そして禁煙席の窓際の角の席に案内されて、彼女をソファー席に座らせ俺はイスに座った。
ウェイトレスがメニューと水とお絞りを置いて「お決まりになられましたら、そちらのボタンを押して呼んで下さい」と言って去った。
とりあえず俺はお絞りを取り出し、手を拭き、コップの水を一口飲むと、メニューは広げず、「ホント久しぶりだよねぇ~何年ぶり?」と頭の中で無い知恵絞りながら考えてると、「えっと・・・19年振り・・・かな?」と彼女が答えた。
「そっかぁ19年かぁ・・・元気だった?」
「うん♪これと言って大病も患うことも無くね♪S君は?」
俺と会ってから笑みを絶やさず話してくれる。
それはたぶん無意識のうちのことだと思った。
「俺も元気だったよ・・・それにしても相変わらず可愛♪ってか、凄い美人になったよね!」と、正直な気持ちを伝えてみた。
すると「え~!そう?相変わらずって昔はそんな事言ってくれなかったじゃん!」と、痛いところを突っ込まれてしまった。
確かに昔から彼女は可愛かった。
「あ、いやいや、可愛いとは言わなかったけど、マジで可愛いとは思ってたよ・・・ただ、周りの目が気になって照れ臭くて口に出せなかったんだよ・・・」
そう言うと「ホントに!?」と、瞳をキラキラと輝せながらテーブルに少し身を乗り出させ聞いて来た。
その時、胸元が少し広がり、さっき感じたかなりの一品であろう胸の谷間がチラッと見えて目のやり場に困ってしまった。
そんな俺の視線を感じたのかどうかわからないが、すっと元位置に座り直した彼女の顔がまともに見れず、話題を変えるべくメニューを広げ、「さぁて、ナニを食べようかなぁ~」とワザとらしく言うと、「私パスタにしよう♪」と早々と彼女は決まったようだった。
俺も急いで決めて注文した。
料理が来る間、今の仕事の事や友達の事など、話は尽きる事無く料理が来ても食べながら、ワイワイと話し込んでいた。
どのくらい話し込んだか、いよいよ一番気になる事を聞いてみた。
「ひとみちゃん、結婚は?」
彼女と会ってから俺は左手の薬指をずっと気にして見ていたが、そこには何も無かったので、実のところどうなのかなと思っていた。
すると返事があっけなく返ってきた。
「まだだよ」
それも堂々と嫌がる素振りも見せず潔いものだった。
「S君は結婚してるんでしょ?その指輪そうだよね?」と、逆に尋ねられてきた。
「あ、うん。3年前にやっとね・・・」と苦笑交じりに答えた。
それから嫁さんも仕事をしている事や、今日が代休であること、食事の支度が面倒だからここへ来た事を話した。
そして「ひとみちゃんは一度も結婚してないの?」と、ちょっと嫌味っぽく聞こえたかもしれないが、彼女は素直に答えてくれた。
「うん。まだ一度もしてないよ。しかも彼氏も居ないしぃ~」と明るく答えてくれたが、俺はその言葉に正直驚いた。
こんな美人なのに何で?としか思えなかった。
当時こそ俺は彼女は恋愛対象ではなかったが、今なら、もし俺が独身だったらアプローチしていたかもしれない。
なのにナゼ・・・思い切って聞いてみた。
「あの・・・さ、気を悪くしたらごめん・・・」
「ん!?なに?」
「俺が言うのも何だけど、ひとみちゃんって凄い美人だし、きっと言い寄る男が居ないわけじゃないと思うけど、どうしてかなって・・・」
ドリンクバーの紅茶を一口すすると、「ありがと♪」と一言いった後・・・。
「確かにS君の言う通り、沢山の男性が好意を持って私に接してきてくれたけど、何かが違うって言うか、足りないって言うか・・・とにかく結婚までには行かないんだよね・・・」
苦笑いをして答えた。
「そっかぁ~理想が高い訳じゃないんだよね?」と更に突っこんで聞いてみると・・・。
「ん~高いかなぁ?高く無いつもりだけどぉ・・・」と曖昧な返答。
「相手に求める条件ってある?例えば身長は180前後で高学歴で高収入で・・・いわゆる『3高』ってヤツ・・・古い?」などと、ちょっと冗談っぽく聞いてみると・・・。
「全然!そんなの気にしないよ!実際今まで付き合った人で本気でいいかもって思った人は全く『3高』からかけ離れてた人だったから・・・」
語尾は消えそうな声だった。
「んじゃ何だろうね・・・?」
「ん~私自身もよく分からなくて・・・その人とは本当に結婚考えてたけど、いざ結婚が現実的になってくると逆に不安ばかりが浮かんで、それは相手に対しての不安じゃなくて、自分に対しての・・・私で本当に良いの?って不安で・・・結婚して生活していくうちに私の事が嫌いになっちゃって捨てられちゃうんじゃないかなって凄く不安になって、でも、そんな事する人じゃないだろうって思うけど思えば思うほど不安が膨らんで、最後には諦めちゃうってパターンなんだよね・・・」
俺に訴えかける様に一気に告白してくれた。
更に「だけど子供は欲しいんだよね・・・こんな私って凄く我儘だよね・・・」と聞いてきた。
「ん~、そう言う不安は相手も同じなんじゃないかなぁ・・・特にひとみちゃん程の美人なら尚の事、こんな俺でいいの?みたいな事、絶対思ってたと思うよ・・・それでも一緒になって幸せになりたいって思って頑張ろうとしてたと思うよ・・・」
月並みな回答しかできなかったけど「そうだよねぇ・・・私ってホント嫌な女だよね・・・」と悲しそうな目をして言った。
「ねぇS君。変な事言っていい?」と突然言われ、「ん?なに?」と聞くと・・・。
「私ね中学の時、S君の事好きだったんだよ♪」
飲みかけた紅茶を思わず吹き溢しそうになった。
「S君とは小学校から一緒だったでしょ?それで中学になってもS君って全然変わらなくて・・・」
「それって遠まわしに成長してないって言ってるの?」
ちょっと皮肉っぽく聞くと・・・。
「違うよ!よく言うじゃん大人になっても少年の心を忘れないみたいな、そんな感じが私なりに感じてて、S君とならずっと一緒に居ても楽しく過ごせるかもって思ってたんだ♪」
意外な告白だった。
「そ、そうだっんだ・・・でももし、あの時ひとみちゃんの気持ちが分かった…

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