嬲られて濡れる私(2)
2017/01/09
メールで指定された場所は小綺麗なマンションの一室だった。
エントランスのパネルを操作してメールに記された番号を入力すると、
自動ドアは音もなく開いて私を迎え入れる。
307号室、表札には「片桐」の文字。
何の変哲もないドアの前で、私は大きく深呼吸をした。
この中に、あの茶髪の男や黒髪の男、あるいはその仲間がいるのだろうか。
特急電車の出来事から二週間。
生理不順のためピルを飲んでいたので妊娠の心配こそなかったが、
私はあれからずっとあの淫猥な鮮烈すぎる記憶に悩まされてきた。
同じ種類の車両に乗った時には、あの男たちが現れるような気がして体が強ばる。
夜ベッドにもぐって目を閉じれば、頭の中で犯されるが繰り返し繰り返し再生される。
彼氏としている時でさえも、ふとした瞬間にあの男たちの指の感触がよみがえってきてしまうのだ。
私はもう一度大きく息を吐き、震える指をインターホンに近づけた。
ピンポーン、と小さな音がする。鼓動が高まっていく。
まさかいきなり引きずり込まれることはないだろうが、
電車の中であんなことをやってのける男たちならそれもあり得ない話ではない。
私は緊張しながら応答を待つ。
――沈黙。
数十秒経ったが、何の反応もない。
もしかしたら、私を呼びだしたことなど忘れて留守にしているのだろうか。それならそれで歓迎だ。
私は少しほっとしながら、もう一度だけ…とインターホンに指を伸ばす。
瞬間、ガチャリと音がしてドアが開いた。私の体は一気に緊張する。
「はーい」
声と共にドアから顔を出したのは、例の黒髪の男だった。
確かに記憶にある顔立ちだが、正面からまともに見るのはこれが初めてだ。
シャワーでも浴びていたのか頬がうっすらと上気しており、
さっぱりとした短い髪からぽたぽたと滴がしたたっている。
くっきりとした黒い瞳、硬質な線を描く輪郭。薄く日に焼けた肌にはニキビひとつない。
引き締まった上半身は裸にバスタオルを一枚羽織っただけの姿で、下はジーンズを履いていた。
おかしな表現だがその姿はまさに雄そのものといった印象で、私は妙に恥ずかしくなってしまう。
「あ…の…」
「ああ、来てくれたんっすね!先日はどうも」
男は明るい声で言う。レイプした相手にかける言葉とは思えないような、いたって日常的な台詞だった。
私が口ごもっていると、男は私の体の上から下まですーっと視線を滑らせた。
「今日はミニスカじゃないんですねー。ちょっと残念だけど、でもそのひらっとしたスカートも可愛いっすよ」
男はにっと歯を見せて笑う。逞しい体つきに似合わない少年くさい笑みだった。
「じゃ、どうぞ中入って下さい」
男はドアをいっぱいに開けて私を手招く。私は無言で部屋に入った。
黒髪がリビングのドアを開けると、大音量のゲームミュージックが私の耳に突き刺さった。
部屋の真ん中に大きな液晶テレビが鎮座しており、
その画面の中では二人のキャラクターが素早い動きで回し蹴りだのアッパーだの技を繰り出している。
懸命に片方のキャラを操作しているのはどうやら床にあぐらをかいている細身の男で、
その後ろ姿には見覚えがあった。
「あー、畜生!あと少しだったのに…!」
YOULOSEの声と共にコントローラーを放り投げた茶髪の男は、
やっと私の存在に気付いたようにこちらを向いた。
「片桐さん、来ましたよー」
黒髪の言葉に、片桐と呼ばれた茶髪の男は薄い唇の片端を吊り上げて笑った。
セットに三十分はかかりそうなホストめいた髪型と細い輪郭が印象的だ。
眉は丁寧に整えられていて、色素の薄い瞳を縁取る睫毛は女の子のように長い。
素肌に羽織ったシャツはさりげないデザインだが高級そうな生地で、
ジーンズは男物の服装にそう詳しくない私でも知っているようなブランド物だった。
片桐は私の顔を見てにっと笑うと、
「…いらっしゃい。おい高原、なんか飲み物でも出してやれよ」
黒髪に顎で命令して、テレビの電源を切った。
流れていたBGMがぷつんと途切れ、部屋の中は急に静かになる。
「はいはい、冷蔵庫勝手に開けますよー。んー…サイダーでもいいっすかね」
「別に何でもいいよ。…おい、何つっ立ってるんだ?ここ座れよ」
片桐は柔らかそうなクッションを左手で自分の隣に引き寄せ、ぽんぽんと叩いた。
断ることなどできる訳がない。私は言われるままにそこに座る。
片桐は、にやりと笑って左手を私の肩に回してきた。
その手には確かに下心が宿っていて、そのいやらしい触り方に背筋がぞくっとする。
「さて、ようこそお越し下さいました――ね?」
片桐は下から私の顔を覗き込むようにして笑う。私は意を決して、震える唇を開いた。
「…写真を…あの写真を、処分してください…」
やりとりしたメールの中で、片桐はことあるごとに写メールの存在をほのめかした。
写真を消してくれと再三頼んでものらりくらりとかわされ、
そして本当に返して欲しいなら指定した日時にここへ――と言われて来たのが、今日、この部屋なのだ。
「ん、そう言うと思ったよ。でもさあ…」
片桐の細い指が、私の二の腕の感触を楽しむようにするすると動く。背中に鳥肌が立つのが分かる。
「普通の写真と違ってネガがある訳じゃないしさあ、
例え俺がここで画像削除してみせても、ホントに消したかどうかって分かんないよなあ?」
「…全て、消して下さい。でないと私にも考えが…」
「何、ひょっとして訴えたりしちゃう気?」
あざ笑うような声だった。高原と呼ばれた黒髪の方が私と片桐の前に氷の入ったサイダーのグラスを置き、
「懲役はやだなあ。絶対大学にマスコミ来ちゃいますよねー」
全く危機感のない調子でそう言いながらさりげなく私の左隣に座る。
私の右側には茶髪の片桐。左側には黒髪の高原。――逃げ道は塞がれている。
「だな。でもさあ、訴えるとかホントこいつ淫乱だよなあ」
「どういうことっすか?」
片桐はサイダーのグラスを手にとり、ごくりと一口飲んでから口を開いた。
「考えてもみろよ。自分がこういう風に触られてこういう風に犯されてって、全部言わなきゃいけないんだぜ?
二人の男のチンコ交互にくわえこんで腰振ってって、さ。
で、弁護士や刑事には『ああ、こいつが輪姦された女か』って目で見られる訳だし」
片桐の指が二の腕の柔らかいところをくすぐるように器用に動く。ぴくっと肩が反応してしまい、私は目を伏せる。
片桐はにやにやと笑いながら続ける。
「セカンドレイプっていうの?ま、最近はそういうの大分保護されてるみたいだけど、裁判となれば大がかりだしな。
家族とか彼氏とかにもバレるんだろうなあ。彼氏は輪姦されてイクような女と付き合っててくれるのかなあー」
わざとらしい調子で言い、片桐は右手でポケットからシルバーの携帯を取りだして、私の目の前でそれを揺らした。
発売されたばかりの最新機種で、何本もつけられた派手なストラップがじゃらじゃらと揺れる。
「お前さあ…彼氏の名前にハートなんかつけて登録するのやめた方がいいぜ。
一発で分かっちゃったからさ、メアドメモしちゃった。それと、家族は家マーク、だよな」
私の顔からさあっと血の気が引いた。家族や彼氏のアドレスが知られている、ということは――!」
「分かる?俺この場でボタンひとつでお前の家族や彼氏にお前のエロい写真送れる訳。
訴えてもいいけどさあ…そしたら俺、逮捕される前に、
お前の大事な人みんなに最高に恥ずかしい写真送ってやるよ。
携帯のキーひとつ押すぐらいなら一瞬でできるからな。ああ…見ろよ高原。これなんかいいだろ?」
「うっわ、すごい、丸見えじゃないすか。あ…こっちは動画ですか…?
すげー、おまんこから精液零れるとこまで撮れてる」
二人は携帯を代わる代わるに見ながら、好色な笑みを唇に浮かべる。私の目の前は真っ暗になっていた。
「状況、理解できました?」
高原が私の耳元でぼそりと囁き、私ははっと正気を取り戻した。
「分かったよな?まあそういう訳なんでね、それが嫌ならちゃんとおとなしくしてろってこと。…高原!」
片桐の声を合図に、私の体はふっと後ろから抱え上げられた。
そのまま高原のあぐらの上に座らされ、ぎゅっと羽交い締めにされる。
「や、やめて…っ!」
「叫んでも誰も聞こえないっすよ、この部屋防音かなりしっかりしてるんで。
無駄な抵抗やめて、一緒に気持ちよくなりましょうよ。――ね、この前みたいに?」
高原の熱い唇が耳たぶに押し当てられ、低い声が耳に吹き込まれる。
「や…、い、いや…っ!」
片桐は私のスカートをめくりあげ、足首をぎゅっと掴んで無理矢理に脚を開かせる。
高原よりは細身だとは言え、男の力に抵抗できる筈もない。簡単に下着が片桐の目に晒されてしまう。
「へーえ、今日は紐パンじゃないんだ。
でも凝ったレースだなあ…ひょっとして脱がされるの分かってて、見られてもいい下着履いてきた?」
片桐の指が下着越しにあそこに触れ、私はびくっとしてのけぞった。
「お…今びくってしたなあ。感じちゃったんだ?…いいぜ、たっぷり可愛がってやるよ」
片桐の十本の指が太股やふくらはぎをさわさわと這い回り、高原の大きな手が乳房を包み込む。
「ん…や、やあ…っ!」
私はきゅっと眉を寄せて首を振る。だが、それで男たちの指が止まるはずもない。
高原は片手でブラのホックを外し、ブラウスの上から再びゆっくりと乳房に触れた。
「柔らかくていいおっぱいですよねえ…ぷ…