忘れられない思い出
2021/12/16
「カズが今度通う高校ってさぁ…」
ナルが僕のベッドの上で、つまらなそうに切り出した。仄かなBabydollの香りが女のコを感じさせる。僕は、この匂いをさせるナルが好きだった。
「なんだよ?」
「共学なんよね?」
「当たり前だよ。俺最初っから男子校だけはパスって思ってたから」
「ズルイ?。アタシ女子高なのに!」
「いーじゃん、華の女子高生」
「これでアタシ達の愛も終わるんだね。カズは学校で可愛い女の子を見つけて、アタシは捨てられる運命なんだわ」
「おい、マテ!終わるどころか始まってもいないだろ」
「ひっどぉい!アタシの身体をもてあそんだの!?」
「声でかいって!その台詞おかん居る時に聞かれたら泣かれるから」
「なーんてね。はぁ…新しい友達作るの面倒くさいよね」
一週間後に高校の入学式を控える僕らは、実の従兄妹だった。ナルは、僕や、僕の親父と同じくスペインの血が流れている。子供というのは単純で、ある意味残酷な生き物だ。見た目からして僕達は、彼等と同じ仲間にはなれなかった。僕もナルも、小学生の時はかなりいじめられていた。学校に友達は、一人も居なかった。家族は何も知らない。僕は親に、学校ではクラスの人気者だと吹聴していたからだ。これはせめてものの、虚勢だった。親に心配をかけたくなかったし、負けたくなかった。ナルも事情は同じだった。
「もっかいしよ。」
「ちょっと待って。今タバコ吸ってるから。」
「もぉぉ。エッチのあとタバコ吸う男は嫌われるよ!」
「ハイハイ、それよく言うよな。でも何でだろ?関係ある?エッチとタバコ」「ひと仕事終わらせた、って感じだからじゃない?アタシもよくわかんないけど。んっ」
言い終わるとナルはすぐに、僕のトランクスを下ろしチンポを咥えた。
「おいっ、いきなり…」
小学生を卒業した春休み、ナルと僕は一線を越えた。お互いしか居ない僕達は、従姉妹だからとかそーゆう常識みたいなものに縛られることがなかった。世界中でわかりあえる、たった一つの存在。僕にはナルしか居なかったし、ナルにも僕しか居なかった。だけど、互いの両親には知られないようにしていた。やはり、僕達も罪悪感みたいなものを感じていたのだと思う。大阪に住んでいた僕と、埼玉に住んでいたナルが連絡を取り合うには、当時は家の電話しかなかった。電話は月に一回、必ず1日にしていた。僕とナルが結ばれた1日だ。かといって、付き合うとかはお互い考えたことは無いと思う。この頃は。少なくとも僕はそうだった。傷の舐めあいみたいなものだった。
「あれっ、もう大きくなってきたよ?」
「お前がフェラするからだろ…」
「でもまだまだ硬くないね。どうすればいい?」
「もっと…」
「もっと何?どうして欲しいのか言って?言わないとやめるよ?」
「しゃぶって…」
おもむろに僕をベッドに押し倒して、僕の耳元で息を荒くして囁く。
「違うでしょ…『僕の汚いチンポをしゃぶって下さい』でしょ?ちゃんとお願いしなきゃ…」
ゾクゾクっと鳥肌が立ってしまう。ナルの左手が握った僕のチンポの尿道に爪を食い込ませる。
「わかった、言うから…」
「ん?なぁに?」
「…僕の、汚いチンポを、しゃぶって…下さい。」
ナルは満面の笑みを浮かべながら、
「イ・ヤ。なんでアタシがあんたの汚いチンポ舐めないといけないの?」
おいおい、さっきまで散々しゃぶってたくせに…
「あんたの汚いチンポはね、これで充分でしょ?」
ナルが僕に見せつけるように、口からタラーッと唾を垂らし、僕のチンポを汚す。水っぽい唾液でベトベトになったチンポをそのまましごかれると、クチャクチャと音がして僕のチンポはあっという間に完全に勃起した。
「おっきくなったよ…カズ、入れるよ。」
「お前いつの間にそんなドSになったんだよ」
「カズが気持ちよさそうな顔するから、ついいじめたくなっちゃうの。んんっ…」ナルが僕の上に乗ってきて、そのまま音もせずチンポは吸い込まれていった。
「彼氏とのエッチはどんな感じ?」
「いやぁー、何で今そんなこと聞くのぉ…あっあっ」
下からも腰を打ちつける。
「いいから言えよ。」
「いっ言えないぃぃ。あぁん止めないで!」
「言わないなら止めるぞ。」
「あああもうイキそう!言うからぁ、止めないで!」
「早く言えよ」
「彼氏はぁ、あっ!ちょっとオチンチンがちっちゃいからぁ、奥に当たらないのぉ!だから…!」
「だから?」
両手でナルの腰をつかみ、スパートをかける。
「だからあぁぁ!こっちのがイイの!ああぁ当たってる…!イキそう!ね、イっていい!ナルイっていい!?」
「…駄目」
ズッと入口までチンポを抜く。焦らしてやる。さっきのお返しだ、とばかりに。
「もぉぉっ!何でよぉ!?何でいっつも意地悪するの!」
ほんの冗談のつもりだったのに、ナルは泣きだしてしまった…そんなナルが可愛いくて、思わずナルの顔をたぐりよせ、深いキスをした。同時に思いっきり深々と突いた。
「んーーーっ!…」
ナルの膣がギュッギュッと僕のチンポを締めつける。どうやら今のひと突きでイったようだった。ぐっとこわばっていたナルの身体から力が抜け、僕に全体重をかけてきた。ナルは僕より成長が早かったので、この頃はまだ僕より若干身長も高かった。勿論、体重も。僕は慌ててナルの唇を解放した。
「ナル、重い…」
「うるさい、ドSが…。もうちょっと待って…」
チンポを抜いて、よっこいしょっとナルを横に寝かせ、両膝だけ立たせる。
「ちょっとまさか…」
「ごめんナル、わかってるだろうけど俺まだイってないから」
ナルのマンコからは漏らしたみたいに液が垂れ流しになっていたが、構わずにチンポの先を合わせる。
「ちょ、ちょっと待って…!まだ痺れてて…はぅっ!」
一気に奥まで突いた。はぅっとか本当に言う奴居るんだ?とか思いながら、膣から流れ出てくる愛液をカリでほじくり出すように、腰をひねりながら突く。
「あぁあぁあぁそこっ…駄目っ!」
「そこってどこ?ここ?」
「あぁっ!そこは駄目だって!」
「じゃあここは?」
腰を打ちつけるのを弱くして、変わりに左手でクリトリスを転がす。
「んーーっ!そこはもっと駄目!お願い止めてっ!ねぇ、カズちゃん止めて。休憩させて。お願いだからぁっ…」
「やだ。わかってるやろ、俺遅漏だから。休憩させて欲しかったらもっと締めろ。」
「あぁぁっそんなこと言わないで…!駄目っ、またイク…!」
「エロいマンコやなぁ、何回イケば気が済むん?ほらっイケよ!」
「あぁーー駄目っ!言わないで…ああぅイクっっ!!」
ナルの身体が痙攣し始めるが、構わずナルの両腕をつかみ、ひたすら腰を打ちつけ、膣の一番奥を突く。
「…っ!?もっ…お願いだからイって…」
「イクよ、ナル…っ!」
「頂戴、奥に…」
「くっううっ!」
「ああああああ…」
…ナルの奥に全部出した。僕達のセックスは大体中出しだった。僕は種無しだと思う。今まで中出しして妊娠したことが無いし、幼少の頃に肺炎で高熱を出したことがある。中に出さない時は、ナルが飲みたがった時と危険日だけだった。
「絶倫過ぎるのも考えものだね…」
ベッドの上の、ナルが虫の息でポツリと呟いた。
入学式を終えて数日後、始業式はかったるいものだった。校長の話なんかまったく聞いてないが、廻りを見渡すとみんなしっかり聞いてそうだった。(こりゃ入る学校間違えたかな)この後すぐに、僕はますますそう確信するハメになる。校長の話が15分を越えたあたり、僕の目の前に突然先生が現れた。
「おい、お前。ちょっと来なさい」
「はぁ。わかりました」
頭が禿げ上がった教師に連れて行かれた別室に入ると、既に何人か生徒が居た。僕は理解した。この部屋に居る同級生達はみんな、髪を脱色したり色を入れている。僕もそうだった。朝、出発前に親に言われて黒彩してきたのだけど、バレてしまったようだ。
座る前に、目が合った女の子が居た。ストレートな髪は背中まで伸びていて、顔が小さく目鼻だちもすっきりしている。誰もが美人と思うような顔立ちだった。瞬間、僕の身体に電撃が走り、運命のような物を感じた。女の子はすぐに目を反らした。あれ、僕の勘違いだったようだ。
…結局、その部屋では来週までに髪を黒染めしますという念書みたいなものを書かされた。とんでもない学校に入ってしまったと思った。
また新しい生活が始まる。桜が綺麗に咲いていて、春の高揚感をかきたてる。同じクラスで仲良くなった、矢口君と喋っていて部活の話になった。
「カズヒロ君はどこか、クラブ入るん?」
「入るつもりはないんだ。バイトしたいし。」
「ふーん。中学では何もやってなかったん?」
「サッカーやってたけど、怪我が治らんくて辞めた」
膝関節には、3つ靭帯があるが、僕の左膝は3つの内2つを一度に切断してしまった。
「サッカーは諦めなさい、無理をすると、サッカーどころか一生松葉杖が必要になるほどの重傷だ」
今でも僕の膝には傷跡があるし、長時間走ると痛み出す。せっかくセレッソ大阪ジュニアユースのセレクションに受かったというのに、サッカーが出来ないと言われた僕は荒れに荒れ、リハビリもちゃんと終わらせなかった。その報いが来ている。
「マジで!?…そっかぁ?。俺、スラムダンク好きだからバスケ部入ろうかなと思っててさ」
「いーんじゃない?」
矢口君はいい奴だった。結局、彼は僕に気を遣ってなのかはわからないがバスケ部には入らなかった。だが、学校では他にも友達は出来たが、特別心を許せるような関係にはならなかった。この当時は、僕自身がまだ他人に対して心を開いてなかったと思う。上っ面だけでみんなと付き合っていた。長年いじめられていたことで、他人にはあまり干渉しなくなったのではないか、と自分で分析している。一臣…僕の一生の親友となるこの男ともこの頃はそれほどの間柄ではなかった。もっとも、一臣自身がこの頃はアメフトで忙しかったというのもあるが。
夏休みになる前にブレイクダンスを始めた。だけど、どうしても膝が痛むので本格的には出来なかった。落ち込んで、僕はナンパに走った。夏休みは毎日のように梅田に通って、たまに日払いのバイトをした。ナンパした女の子はカラオケや、1500円くらいで数時間借りられるフリールームに連れこんでセックスだけしてサヨナラ。ひどい生活を送っていた。たまに学校の友達に見つかったりしていたが、無視した。夏休みが終わり、学校が始まると僕はすっかりヤリチンキャラ扱いだった。さすがに苦笑したが、自業自得だった。落ち葉が目立ち始める季節になり、クラスの文化祭の出し物を決める話し合いで、喫茶店をやることになった。ただの喫茶店ではなく、ウェイトレスが全員オカマだという。誰がウェイトレスをやるか、という話で一番最初に僕が推薦された。冗談じゃない、と思ったが僕には選択権が無かった。まぁ今でもたまに女性と間違えられることがあるので、仕方ないことなのかも知れない。スネ毛を剃って、胸にパッドを入れて、ウィッグを被ってルーズソックスを履いた。セーラー服はわざわざ他校の友達から借りた。大ウケするかと思ったが…みんなドン引きしていた。化粧をしてくれた子が、「私より完全にキレイ…」と涙目になっていて、そんなバカなと鏡を見たら、我ながら可愛いと思ってしまった。男子は笑ってくれたが、女子は誰も笑っていなかった。文化祭の打ち上げで、焼き肉屋に行った。みんな酒を飲んでいたが、弱い子ばっかりで、どんどん倒れていった。家庭の方針で、小学生の頃から夕食時の晩酌には親父に付き合っていた僕は取り残されつつも、ひたすら飲んでいた。この時、美樹という女の子と仲良くなり、冬には一緒に水族館へ行ったりした。一応付き合ってみたが、やはり僕は他人にそこまでのめり込めず、すぐに別れた。彼女には悪いことをしたと思う。この頃から自分の性格について悩むようになった。他人にまったく興味が持てないのだ。自分でも病気だと思い、精神科にも通ってみたが、カウンセラーは決まったような事を言うだけで何の解決にもならなかった。秋に始めたパン屋のバイトも辞めた。
厳しい寒さの冬が終わり、少しづつ、また春が近づいてきた。一年の中で、この季節が一番好きだ。桜が咲き乱れ、なんともいえない高揚感が胸をくすぐる。クラス替えで、一年の時と同じクラスになったのは一臣だけになった。僕は一臣と一緒に居ると、凄く楽しかった。一臣はいつも明るくて、馬鹿なことを言ったりしてみんなの中心だった。僕は一臣にある種の憧れのような物を抱いていた。
始まりは突然訪れる。一年の始業式で、目が合った子と同じクラスになった。名前はマミ。彼女には彼氏が居ると聞いていた。僕は、彼女を遠くから観察するのが好きだった。あっけらかんとしていて、言いたいことは何でも平気で言う。時々ちょっと天然で、美人を一切鼻にかけない、初対面でも誰とでも喋れるマミは女の子のグループではなく、一臣や、別の男子といつも連るんでいた。一臣が馬鹿なことを言ったりして、マミがそれにつっこむ。彼女の仕草、言動の一挙手一動に僕は夢中だった。
ある日、身体測定があった。僕は全ての測定が終わり、中庭の自動販売機にジュースを買いに行った。入口に入ると、マミと彼女が付き合っていると聞いていた男子が居た。二人で、何やら深刻な話をしている様子だった。しばらく観察していると、男子が去っていった。僕の位置からでは、二人の会話の内容はまったく聞こえなかったが、直感で別れ話だと分かった。彼女がこちらに振り向いた。目を真っ赤に腫らせて、必死に涙を堪えていた。僕の所まで歩いてきて、軽く僕を一瞥すると、そのまま素通りしていった。僕はすれ違い様にも、声をかけることが出来なかった。何を言えばいいのかわからなかったし、勇気が出なかった。我ながら臆病者だな、と思って、ジュースを買った後教室に戻った。彼女の足取りを追うつもりだったが、トイレにでも行ったのか教室にも居なかった。結局、マミは授業が始まっても帰って来なかった。保健室にでも逃げ込んだのかな…この時、すでに僕の頭はマミのことで一杯だった。彼女のことが好きなんだとわかった。こんな経験は初めてだった。中学の頃付き合っていた先輩とセックスしている時よりも、ろくに喋ったことの無い彼女のことを考えている今この瞬間の方がずっと刺激的で、幸せな時間だと思った。
しばらく経って、僕がなんとか平静を装ってマミと喋れるようになった頃、全学年クラス対抗の球技大会の日が来た。僕はサッカーにエントリーした。膝は調子良かったし、ソフトボールは苦手だったから。彼女は運動が苦手なようで、何もエントリーしていなかった。
「カズヒロは運動出来るの?そんな細い身体で」
マミがからかうように問いかけてきた。僕はちょっとムッとした顔で
「一応サッカー選手目指してた頃もあったんだよ」
と返した。
「またまた?いいの?そんな自分でハードルあげちゃって?」
「いや本当だって!見てろよ。大活躍したる!」
僕は当初、バックでサボろうと思っていたが彼女に叱咤(挑発か?)されて燃えた。FWに入った。一回戦の相手は1年のクラスだった。年下に負ける訳にはいかない。おまけに二回戦の相手は確実に3年生だったので、この試合でチームをのせる必要があった。
キックオフの時、相手のGKが左ポストにもたれてディフェンスの奴と話をしていたのを見て、そのままキックオフゴールを狙った。僕が思いっきり蹴ったボールは、ゴール手間でワンバウンドしてそのままゴールに吸い込まれた。GKは気付いたらもうボールがネットにささっていた。
「うおおおおお!」
「すげーー!」
「カズヒロ今狙ってたの!?狙ってたの!?」
「一応ね。届いてラッキーだったよ。さぁーこっからどんどん入れてこーぜ!!」
「「「おう!!」」」
チームをのせる作戦は大成功だった。この試合、僕はハットトリックも達成した。僕のクラスにはサッカー部でセントラルMFのレギュラーの奴も居たので、僕にいいパスをくれた。僕は決勝までの全試合で2点以上を決めることが出来た。決勝戦は3年生のサッカー部が5人も居るクラスで、僕も二人のマーカーの上から1点決めることは出来たが、3-1で敗れた。久しぶりにサッカーを本気でやって、膝も痛みが限界だった。
試合後、打ち上げと称して大阪では珍しい、もんじゃ焼き屋にみんなで行った。応援してくれた女子や、ソフトボールの方の男子も一緒だった―ソフトボールのチームは一回戦で負けていたらしい―。マミが僕の隣に座って、ドキドキの僕に話しかけてきた。
「凄かったね!カズヒロってサッカー超上手いんだ。全然知らなかった。」
「意外?」
「うん!だってパッと見、運動出来ない子だもん」
「ハッキリ言ってくれるね…」
「でもカッコよかったよ?」
「惚れたらあかんよ。あ、俺コーラね。」
「惚れちゃうかもね。ってか女の子すごい盛り上がってたよ!明日あたり告白されるんじゃない!?」
「ハイハイ。」
「本当だって。1年の子なんか自分のクラスの応援忘れてうっとりしてたよ。いま彼女いないんでしょ?いい子居たら付き合っちゃえば!」
「年下は無理。てか、何で彼女いないの知ってるん?」
「一臣に聞いた。カズヒロ、結構遊んでるみたいね?」
イシシ、って顔で僕を見つめるマミが可愛いすぎて、気絶しそうになった。
「遊んでないって。俺一途だから」
「またぁ?。好きな子でも居るの?」
「…居るよ。」
「…そうなんだ。ふーん。」
興味なさそうな顔つきでもんじゃをかきまぜるマミ。君のことだよ、、、この台詞が僕の口から出てくれることは無かった。すぐ側に居るのに、まだまだ遠い存在…でも今は近くに居れるだけで良かった。寝る時はいつもマミの事を考えながら寝ていた。正直、マミを想って自家発電に励む毎日だった。
翌日、疲れて寝過ぎた僕は遅刻した。バスを乗りついで学校の近くの駅で偶然にもマミに会った。
「あ?遅刻だ!」
「お前もな。どうしたん?」
「何か昨日眠れなくて」
「俺と逆だな。寝過ぎたわ」
「…ねぇ。」
「ん?」
「今日、学校終わったらイオン行かない?」
イオンというのは駅にあるショッピングモールの名前で、ワーナーの映画館や、ゲームセンターも入っている大型商業施設の名前だ。勿論、レストランも豊富にある。
「…二人でじゃなければいいよ。」
「なんでよ!?」
「僕、女の子には気をつけなさいってお母さんに言われてるから」
「きゃはははは!絶対嘘やん!」
「ごめん、嘘でした。たまに家出る時、コンドーム持ったかって聞かれる」
「マジで!?プッ、いいお母さんやん!」
「うっとおしいって。何か見たい映画でもあるの?」
「映画じゃなくて、美味しいカレー屋さん見つけたから。」
「マジ!?俺、カレーにはうるさいよ!?」
「一臣から聞いた。インド人がやってるから、味はいいよ!あんま日本語通じないけどね。」
「駄目じゃん!」
学校に着いてからも、同じクラスなので教室に着くまでずっと喋りっぱなしだった。
授業が終わって、みんなに別れを告げて二人でイオンに向かった。行きのバスの中で、ずっと聞けなかったあの事を聞いた。
「マミ、彼氏と別れたの?」
「…うん。あの時、盗み聞きしてたでしょ。」
「盗み聞きはしてないけどな。会話の内容は聞こえなかったけど、なんとなく別れ話かなってのは思ってた。」
「あれから、ずっとカズヒロはその事について聞いてこなかったよね。」
「別に、俺が聞くようなことじゃないと思ったから。何で別れたの?」
「フラれた。他に好きな子が出来たんだって」
「マジ!?お前振るなんて、その子どんだけ可愛いんだよ!?」
「ぷっ。ありがと。その相手の子と今は付き合ってるみたい。E組のAって子」
その子を後日、確認したがマミの方がずっと可愛いかった。やはり美人は三日で飽きるのか…。
「そっか。バイトとかはしないの?」
「しようかな、とは思ってるけど。何がいいかな?」
「やっぱマミは客商売向いてると思うぞ。近所のおばちゃんとかすぐ仲良くなるやろ?」
「うん!朝によく会うおばちゃん時々あんぱんとかくれるようになった!」
「マジ?いいなあ笑」
自分から話題を振っておいてなんだが…なるべく恋愛関係の話はそらすようにしたかった。別れた事実はあったものの、時々彼女が見せる寂しそうな顔がまるで、(彼氏の事が忘れられない)と言っているような気がしたからだ。そして、僕には自信が無かった。彼女は言ってみれば学校のアイドルのような存在だったし、それこそ男をよりどりみどり出来る立場だったから。僕は、マミにはふさわしくないと思っていた。第一、側に居れるだけで満足だった。
インドカレー屋は、マミの言うとおり日本語があまり分からないインド人が一人でやっている店だった。味もマミの言うとおりすごく美味しかった。確か1000円以下の値段でおなかいっぱい食べれる店だったと思う。この店のチキンカレーは僕達の定番になった。
「もーすぐジブリの最新作が公開になるね。」
「千と千尋の神隠しだっけ?なんか今までのジブリとは大分違うっぽいな。」
「ジブリ好きなの?」
「魔女の宅急便はめっちゃ好きで小さい頃よく見てた。あれで猫が好きになったんやと思う。」
「ジジ可愛いよね!ナウシカは見た?」
「見てない。魔女とトトロとぽんぽこしか見た事ないな。」
「じゃあさ、今度千と千尋見よ?」
「いいね!でも、学校の帰りだと大変じゃないかな。」
「じゃあ休みに梅田にでも行く?」
「えっ…」
どうしよう。これは世間的に言われるデートのお誘いでは無いだろうか…。それとも僕の考えすぎなのか。マミといえば、女子でも男子でも接する態度が変わらない、いわゆる天然だ。何も意識せずにノリで言ってるだけかもしれない。だとすると、ここであまりキョドると不審がられるか。なにより、マミのことだから大人数でって意味かもしれない。
「わかった。じゃあ、いつ公開になるの?」
「確か、今週末だと思う。今週は!?」
「いいよ。全部任せる。」
興奮が冷めやらない帰り道、こんな幸せでいいのかと、身体が火照って仕方なかった。
続きます。多少、脚色はありますが、台詞など、鮮明には覚えてないので多少脚色はあるかもしれませんが基本的には僕の体験談です。