人妻小説が変わってきた
2019/07/29
エロ雑誌に始まりエロ小説まで、官能文学の編集を長年務めてきたIさんと先日、お話する機会があった。
もう70歳を過ぎているが、今もフリーランスで現役だ。
仕事も女も。
そのIさんが言うに、人妻もの作品に対する若い読者の反応が、このところ変わってきたんだそうな。
ちなみに彼の言う「若者」は、おおむね30歳以下を指すらしい。
昔から「一盗、二婢、三娼」と言うように、他人様の奥方に手をつけるのは男にとって無上の悦び。
だからこそ、人妻ものは官能文学の主流に近い位置を占めてきた。
ところが、バブルが崩壊した十数年前くらいから、人妻ものを見る若い読者の目が変わってきたという。
具体的には、亭主以外と同衾する人妻を「スベタ」
「肉便器」と貶め、亭主に同情する奴が増えてきた。
読者の目線が「人妻を篭絡する男」から「妻が篭絡される夫」にシフトしたというべきか。
やたら道徳を振りかざして「ケシカラン」と叫ぶ、かつての官能小説読者にはあり得なかった反応だ。
といって最近の若者が道徳心に溢れているかというと、さにあらず。
レイプやSMを扱った作品は幅広い年代で人気だし、むしろ陵辱作品の鬼畜度合いはエスカレートしている。
どうして人妻ものだけが目の敵にされるのか。
「若い連中の男としての質が落ち、自信を失っているせいじゃないか」とIさんは分析する。
彼に言わせれば、まず若者の頭が悪くなった。
昔と今では大学進学率も違うし「学力」を単純比較することはできないが、より広い意味での「知性」に欠ける人間が増えたということだろう。
頭だけでなく精神的にも未熟な奴が増えた。
社会性や責任感だけでなく発想や洞察力もお粗末で、20歳・・・下手をすれば30歳を過ぎても中学生のような考え方しかできない人間が目立つそうだ。
子供の体力や運動能力がここ20年ほど低下し続けているのは知られているが、Iさんが見る限り、精力も確実に衰えているという。
精子の数も減っているそうだが、それ以上にセックス自体が淡白になっている。
「昔の若者は夜更けから空が白むまで、時間も忘れて女を抱いたものだが、今の若者で3回戦、4回戦と頑張れる奴がどれだけいるか」とIさん。
回数だけでなく1回の持続時間も落ち、何より「快感を貪ろう」という意欲が決定的に乏くなった。
この淡白さが「高齢童貞」増加の原因かもしれない。
体力も精力もなければ、頭も悪いし精神的にも幼い。
20年前、いやIさんが若かった半世紀前と比べても、若者の「男(雄)としての魅力」はどうしようもなく劣化した。
それが官能文学の読み方も変えてしまった・・・とIさんは話す。
かつての若者は財力や知性で中高年に劣るものの、体力・精力と性への貪欲さを武器に戦った。
老練さと若さのせめぎ合いが人妻ものの醍醐味だったわけだ。
しかし今、財力でも精力でも中年に太刀打ちできず、老年とすら互角に戦えない若者が少なくない。
劣化を自覚した若者たちは、同時に男としての自信も失った。
「人妻ものを読むと、どうしても寝取る側じゃなく、寝取られる側に自分を重ねてしまうんだな」Iさんは溜息をつく。
編集者として毎月数十編の投稿作品にも目を通すIさんだが、最近の若者からの投稿は人妻を奪う作品より、自分の妻や恋人が奪われる作品が多いという。
それも、大切な人を奪われる苦悩を精緻に描くならまだしも、社会的手段で浮気妻や間男に報復して恨みを晴らすという、子供っぽい貧困な発想の筋書きが目立つ。
「こういう金玉の萎んだ男ばかりが増えて、この国はどうなるのかね」現役の30代人妻との月2回の逢瀬が楽しみというIさんは、柄にもなく将来を憂えている。