イノセンス
2017/07/16
ねね・・・おねえちゃん・・・こっちこっち・・・二人の子供に両手を引っ張られ、背中を一人に押されるような格好で美紗子は旅館の旧館にある宴会場の奥の布団部屋へ連れてこられた・・・・ひなびた温泉旅館だか昔はそこそこ団体客で賑わっていたんだろう・・・旧館は新館が出来て以来殆ど使うことがなく大きな団体客が来ない限り誰も出入りすることがない・・・まさに子供の探検にはうってつけの場所だった。
美沙子と夫は友人夫婦と温泉旅館を訪れていた。
夫二名は朝から釣りに出かけ、友人の妻も釣りに同行したが妻美沙子は急ぎの仕事をもってきていてそれを片付けたいということで別行動を取った。
夕方バーベキューで合流するつもりだったが思ったより早く仕事が片付いたので散歩にでたところで子供達に出会った。
渡り廊下を通って、迷路のような廊下を抜け、突き当たりの階段を上がると三階が大宴会場で、その奥に道具類をしまってある倉庫兼布団部屋があった。
きっと継ぎ足し、継ぎ足しを重ねた増改築の結果迷路のような構造になったものだろうと思った。
布団部屋の扉を開くと・・・明るいところから暗い部屋に入ったので暫くは何も見えなかった・・・ねね、あれ、みて・・・・・薄暗い部屋の奥の壁のところに何か人の形をした大きな影があった。
部屋の暗さに目がなれてくるとそれが戦国武将の鎧兜であることがわかった。
よく出来たレプリカなのか、本物の骨董なのかはわからなかったが黒く鈍い光を放つ威圧感のある鎧兜だった・・・「あれ、夜中に動くんだって・・・・」一人の少年が恐々と言った。
「うそよ、そんなことあるわけないわよ・・・」と美紗子。
美紗子も内心は怖のだが子供の手前強気を演じている・・・「でも、確かに何か怖い感じよね・・・・」
「怖いよう~」と言いながら美紗子の両手を握っていた二人が美紗子に擦り寄りぴったり体をくっつけて来た。
それが合図だった・・・少年の一人が予め大きな木箱の下に角材を噛まして持ち上げておいたその角材を蹴って外し・・・箱が大きな音を立てた「ガタッ!」その音を合図に「ワっ~・・・」と一人が正面から美紗子に抱きついてきた。
その勢いに押され美紗子は後ずりながら部屋の後ろの壁まで押されてしまった。
右手に一人、左手に一人、背後に一人、そして正面から一人・・・ちょうど押しくらまんじゅうのような状態で美紗子は4人に囲まれたまま壁に押し付けられた格好だった。
ガタッという音に驚いた一瞬の出来事だったので直ぐにはわからなかったが美紗子は完全に身動きを封じられた格好になっていた。
一瞬間があって何か変な感じがよぎった・・・あれ?何か変?腰のあたりに不自然な動きに感づいた時には既に遅く美紗子のスカートがストンと床に落ちた。
正面から抱きついてきた少年が美紗子の背中に手を廻しスカートのホックを外した上にファースナーを下ろしていたのだ。
両側と正面から3人の少年に壁に押し付けられていたので美紗子は最初はそれに気づかなかった。
「やった~」と言いながら正面と両横の少年が美紗子から逃げるように離れ、その時ようやく美紗子は何が起こったかを理解した。
自分の足元に自分が穿いていた筈のスカートが落ちていることに気づいたのだ。
「こら~」と言いながら、美紗子の頭の中には子供の頃の「スカートめくり」の印象がなつかしいという感覚とともにフラッシュバックしていた。
「全くも~」とつぶやきながら・・・、けど昔のスカートめくりよりかなり大胆且つ巧妙ね・・・」そんなことを思った矢先、美紗子の背後に一人残っていた少年が美紗子の背中をトンと前に押した・・・・美紗子はいきなりのことにバランスを崩し前のめりになって二歩、三歩前に踏み出しそして止まった。
ワン、ツー、スリー・・・端から見ていたらホックを外すところから、これらは流れるような完全に計画された一連の連続した動作であることがわかっただろう・・「こら!何するの・・・」と言いながら美紗子が後ろを振り返った時、美紗子は自分のスカートが切り株のような状態で元いたところに落ちていることに気づいた・・・・背中を押されて前のめりに踏み出した時、足元に脱げていたスカートをその場に残して前に踏み出した・・・つまりスカートから押し出されてしまった訳だ。
「まったく!」と言おうとした瞬間、美紗子を前に押し出しだした少年が美紗子のスカートを拾い上げ、部屋の出口に向かって駆け出した・・・他の子供達も口々に「わー」とハシャギながらその少年の後を追い掛けて布団部屋から走り去ったので美紗子は布団部屋の中に一人取り残されてしまった・・・布団部屋の戸口から大宴会場を覗いた時大宴会場の真ん中に美紗子のスカートがあり、子供達の姿はどこにも見えなかった・・・大宴会場は50メートルはあるように見えた・・・スカートまでの距離は25メートル位だろう・・・・日の明るさに照らされて美紗子は我に返った・・・やだ・・下半身ショーツ一枚じゃない・・・・これじゃ、取りにいけない・・・・もちろん、大宴会場には誰もいないから誰に見られている訳ではないから、思い切って取りにいけばいいわけだが、、ブラウスの下にショーツ一枚というなんともアンバランスな格好が自分自身落ち着かない・・・・・けど、あの子達・・・どこ行ったのかしら・・・・「ちょっと、き、君達・・・出てきて早くスカートを返しなさい・・・これじゃ、ここから出れないじゃないの・・・・」
「そんなこと言ってないでそっちから取りに来ればいいじゃない・・・」襖の向こう側から子供達の声がした・・・・「取りにおいでよ~」
「いいじゃん、誰も見てないんだし・・」
「そのままの格好で帰る訳にはいかないでしょ~」
「お願い・返して・・・ね。お願いだから・・・」頼みこんだり、「早く返さないと、ただじゃ、すまないんだからね・・・」と脅してみたり・・・・「いい子だから・・・ね・・・早く~」まさに、おだてたり、すかしたり・・そんなやり取りが数分間続いた。
じゃ、しょうがないから、もって行ってあげるよ・・・・少年達がスカーとを拾い上げ宴会場の真ん中から布団部屋のほうにゆっくり近づき始めた。
あと数メートルのところで美紗子はスカートに向けてダッシュを試みたが、少年達はさっと身を返して逃げた。
美紗子より子供達のほうが足が早く捕まえることができなかった・・・美紗子は直ぐに布団部屋に駆け戻った・・・鬼が追うと子供達が逃げる・・・ちょうど「だるまさん転んだ」をやっているような光景に写っただろう・・・二度目は、一度目よりもっと近くまで少年達は近づいてきた・・・けど、やっぱり捕まえることは出来なかった。
三度目も・・・・・少年達はスカートを上に向かって投げたり、そっぽを向いたりして意図的に隙を作って見せたりしながら美紗子を挑発したが、やはり美紗子は子供達を捕まえることができなかった。
いたずらの度はちょっと過ぎてるけど・・・本とに子供ね・・・挑発の仕方にいやみがない、ひねた子達だったらもっともっとねちっこい、嫌味っぽいこと言ってたりするけどこの子達の言動には嫌味がないぶん・・・・純真なのね・・・・美紗子はなんとなくそんなことを感じ初めていた。
四度目も・・・・・三度目の時より子供達が近づいてきた・・・美紗子もスタートのタイミングを遅らせて彼らをより近くにひきつけた・・・「えい!」さっきよりかなり近いところまで追いつくことができたが、結局子供達は寸前で逃げ切って・・・美紗子もまた布団部屋に引き返した。
五度目になると子供達も美紗子にハンデを与えるかのように、畳の上にねっころがったり、余裕を見せた。
美紗子もギリギリまで彼らを引き寄せた「エイ!」・・・「ヤッタ!」今度は手が届くと美紗子は思った・・・少年も後ろ走りで逃げたので先よりもスピードが遅く、美紗子はじょじょに距離をつめ、ついにスカートを持った少年に追いついて捕まえることができた。
「捕まえたわ!」リーダー格の少年が美紗子のスカートを持った手を自分の背後に廻した状態のまま美紗子に正面から抱きつかれる格好で捕まった・・・・少年はもはや逃げる動きを見せなかった。
・・・少年は美紗子の耳元で「捕まったのは・・・ぼくじゃないと思うんですけど・・・」。
その時美紗子はその時まんまと宴会場の中央までおびき出されたことに気づいた・・・いや、それどころじゃない・・・・「この状態だと・・逃げるべきなのはそっちだと思うんだけどな・・・・」美紗子が気配を感じて振り返ると手を伸ばせば届くくらいの距離で少年達に囲まれていた。
「えっ?・・・うそっ?」その瞬間美紗子の身体がふわっと宙に浮いた・・・柔道の投げ技のような技だった・・・美紗子は畳の上に軽る~く投げられ・・・そのまま両手、両足を押さえられて身動きができない状態にされていた。
「もっとも・・逃げられればの話しですけどね・・・・」
「え、う、うそ、そ、そんな・・・」と言おうとした瞬間口にタオルが詰め込まれ声が出せなくなった。
大きな声出されると困りますから・・・ちょっと我慢してくださいね・・・美紗子も抵抗を試みたが無駄だった。
「奥さんには見えないと思いますけど・・・すごくセクシーですよ・・・ショーツ一枚の下半身が」・・・「うぐっ(いや!)」
「少年の言葉は美紗子に美紗子の現状を思い出させた」・・・「もっともこれからその一枚にもさよならしてもらいますけどね・・・・」二人の少年がさっきの布団部屋から布団を宴会場の中央に引っ張ってくるのが見えた。
美紗子はその時自分が大きな間違えを犯していたことに初めて気が付いた・・・最初から全部罠だったんだ・・・と。
あどけない仕草、言動・・・全てが計算されたものだった・・・単なる子供の「いたずら」だと思っていたことが、あどけない「…