キャバ嬢を愛して2
2018/09/30
妻とサヨナラして、新たに千佳と。
なんて短絡的に思ってみたものの、
実際のところ、そんな単純に割り切れるものではありませんでした。
俺は妻に未練タラタラだったんです。
妻とはいろいろ話し合いました。
このまま簡単に別れていいものか。別れずにやり直せる可能性はあるのか……。しかし妻は頑なでした。
浮気の相手が誰かは最後まで言わなかったし、
「とにかく別れて欲しい」の一点張り。
考えてみれば、他の男の子どもが出来たことを俺に報告するぐらいだから、
その時点で気持ちは固まっていたのでしょう。わかった。好きにすればいいさ。終わりにしよう。ついに俺がそう言い放ったのは成人式目前の頃でした。
コートをひっつかむと、その足で『春菜』の店へと向かいました。
思えば何度かメールはもらったものの
、あの日以来春菜=千佳とは逢っていませんでした。しかし、その日『春菜』はお休みでした。
仕方なく、顔見知りということで、いつも上司が指名している京香さんを指名しました。
彼女は春菜よりも長くウェービーな髪とキレ長の目の正統派美人です。
胸も大きく「いかにも」な色香を漂わせており、店でもトップ3に入る人気嬢です。「あけましておめでとう、ですね! でも、どうしたんです?
私なんか指名するとたーちゃん(上司)と春菜ちゃんに怒られちゃいますよ?」京香さんは意地悪そうにいいました。「悪いね。ちょっと呑みたくなってさ。秘密にしておいて」「ふふふ。いいですよ」いつもは上司がいるため、京香さんと二人っきりで話すのははじめてでした。
会話にもそつがないし、雰囲気を作るのも上手い。
それでいて「ここはお店、あなたはお客」という最終ラインを強く客に意識させる絶妙の接客。
これがプロなんだな、と再認識させられました。
京香さんに比べれば春菜の接客はまだまだ未熟だし、
ずいぶんと『千佳』の地金をさらけ出したものだったんだな、と気が付きました。「春菜ちゃんはね、ちょっと素直すぎるんですよね。
それがいいところだけど、この仕事向いてないかも。
よくお客さんと喧嘩してますしね」ここにはいない『春菜』の話題でひとしきり盛り上がったあと、京香さんは別の席に呼ばれて行きました。
まだ入店して20分も立っていませんでしたが、それを潮に店を出ることにしました。とにかく春菜に、いや、『千佳』に逢いたくてたまらなくなってしまったのです。
店を出るとすぐに千佳に電話を掛けました。
メールでのやりとりは頻繁にしていましたが、電話をしたのははじめてのことでした。「どうしたの?」携帯に出た千佳は眠そうな声でした。
といっても家で寝ていたというわけではないようです。電話の向こうに聞こえる雑音はどこかのお店の中のようでした。「今ね、会社の人たちと下北で飲んでるのー」千佳は昼間は派遣で貿易会社に勤めていました。どうやらその新年会だったようです。「そっか。邪魔してごめん」「ちょっとまって、どうしたの?」あわてて電話を切ろうとする俺を、千佳は引き留めてくれました。「ん。ちょっと千佳と呑みたかったんだ。ごめんね、急に」「そっか……。わかった。いまどこ?」「店の前だよ。いるかと思ってさ」「それじゃ1時間後に渋谷。こないだの店でね」「え? いいの?」「なんかワケアリなんでしょ? Eさんが電話してくるなんてさ」そういって電話は切れました。
俺はたぶん、感動していたと思います。泣きそうになっていたと思います。1時間と20分後、終電間際の時刻に千佳は現れました。
タイトなジーンズにセーター、ロングのコートという出で立ちで、
長い髪をお団子にしており、前にあったときよりもOLっぽい雰囲気を醸し出していました。「ごめんね、抜け出すの手間どっちゃって。お待たせしました」「こっちこそわるかったね、急に電話なんかしちゃって……」「いいってことよ。必要だったんでしょ。千佳さんが」前回に続き聞いた千佳の「いいってことよ」。
このあとの長い付き合いの中で、何十回、何百回も聞くことになる千佳の口癖をはじめて意識した瞬間でした。「で、どうしたわけ?」「まあ、いろいろあってさ。なんか酒飲みまくりたくて」「へえ、それだけ?」「いや、その。千佳と呑みたくて」「よろしい。んじゃ、聞いてあげますよ、そのいろいろってやつ」それから、熱燗を舐めるように飲みながら、妻の話と、今日電話するまでの顛末を話しました。
といっても5分もあれば終わってしまうような話でしたけど。
千佳はお猪口を眺めながら、黙って話を聞いていました。「……てなわけです。間抜けな寝取られ男のお話でした」「そっか……。なんか、掛けてあげる言葉も思いつかないね」「だろうなぁ。悪いね、こんな糞呑みに付き合わせてさ」「もう、離婚しかないの?」「うん。さっきあきらめた」「……そっか。しかたないね」「うん」はあっと、ため息をひとつつくと、千佳はまとめていた長い髪をほどき、
ごそごそと手櫛で整えながらぽつりといいました。「抱いてあげるよ」「え?」「寂しいんでしょ?」「ま、まあね」「抱っこして寝てあげる。ラブホいこ」「え?」「セックスはなしね。生理だから」「え?」「……え? ばっかりだね」くすくすと笑う千佳の瞳は、あのときのように優しい光を湛えていました。時間が遅かったこともあり、ラブホ街はけっこう混み合っていました。
なかなか空室が見つかりません。
考えてみると、ラブホって、まだ妻と婚約する前に来て以来、約7年ぶりです。
雑然としたラブホ街を千佳と連れだって歩くのは、それだけで楽しかったです。何件かラブホを回って、ようやく空室を見つけました。
あまりキレイなホテルではありませんでしたが、やむなし、というところです。部屋に入ると、千佳はコートも脱がず、そのまま大きなベッドにダイブしました。「うひ〜酔っぱらってるなあ〜。お布団がきもちいいわ〜」両手を広げ、大の字でうつぶせになったまま、
千佳は「ふにゃ〜」と、かわいい声を出しました。
そういえば、電話を掛けたときすでに眠そうだったよな……。「……そのまま寝るなよ」「ん〜このまま寝たいかも」ベッドに腰掛け、幸せそうな千佳の横顔を眺めてると、
1分もしないうちにそれは寝顔に変わっていました。「本当に寝やがった……」叩き起こそうかとも思いましたが、なんか脱力してしまい、
俺もコートを来たまま千佳の横に体を投げ出しました。
なんだよ、この展開。スースーと気持ちよさそうな千佳の寝息を聞いているうちに、
なんかもういろんなことがどうでもよくなってきました。投げ出されたままの千佳の手に、自分の手を重ねました。
小さな手でした。
考えてみたら、店に通うようになって3ヵ月。手を握ったことすらなかったんですよね。
お店ではできるかぎり女の子に接触しないように心がけていましたから。ばかばかしい話かもしれませんが、『そういうこと(お触り)をするお店ではない』と、自分に言い聞かせていました。
それは、仕事上のこととはいえ、既婚者の自分がキャバクラに行くということに対して、妻へのせめてもの「操」のつもりでした。ふと、気が付くと、部屋の照明は落とされ、遠くでシャワーの音が聞こえます。
どうやら俺も眠ってしまったようです。
とりあえず起きあがると、コートは脱がされていました。
やがてシャワーは止み、そこだけ明るい洗面所の方角に、ホテルの浴衣を纏った千佳の姿が浮かび上がりました。「あ。起きたんだ」「うん」「Eさんもシャワー浴びてきなよ」千佳は歯ブラシを銜えて、備え付けの小さなソファに座りました。
その表情は暗すぎてよく見えませんでしたが、千佳らしくない緊張感を身に纏っていることだけはよくわかりました。
俺も緊張してきて、足早にバスルームへと向かいました。セックスはなしね、か。
ちゃんと釘をさされていることも覚えていましたが、
この状況に、俺のモノは完全に勃起していました。
ここまでくれば強引にやっちゃっても強姦にはなるまい、などと、浅ましいことも考えました。
しかし、実際にそんなことするわけがありません。たった一度の快楽のために、千佳の信頼を裏切るなんて、あまりにも馬鹿馬鹿しすぎます。
今日、ここまでに千佳が見せてくれた女っぷりの良さに、俺は心底惚れ込んでいました。シャワーから出ると、千佳はすでにベッドの中にいました。
うわ。また寝やがったか? と焦りましたが、もそもそ動いているようです。
ベッドまで行くと、千佳は鼻の下まで布団に潜った状態で、
ぼーっと天上を見つめていました。俺が隣に潜り込むと、千佳は背中を向けるように丸まってしまいました。
おそるおそる手を伸ばし、浴衣の上から細い肩をつついて見ました。
すると、千佳は大げさなぐらいびくっとして、さらに身を硬くしてしまいました。なんて声を掛けていいのかわからず、かといってこのままというのも我慢できず、
俺は千佳を後ろから抱きしめました。
薄い浴衣越しに感じた千佳は、とても細く、でもちゃんとやわらかくて。
同時に緊張し、硬くなった筋肉も感じ取れました。「千佳……」耳元で名前を呼ぶと、千佳はゆっくりと顔をこちらに向けました。
およそ10センチ。こんなに近くで千佳の顔を見たことはありませんでした。
やっぱり優しい眼差しでした。「なんかね、早まっちゃったかな? 私」「そんなことはないと思うぞ」そういいながら、俺は猛る股間を悟られないよう、できるだけ腰を引いて、上半身だけを密着させて胸元に顔を埋めました。
ブラはつけていませんでした。たぶん、Aカップ以下。
そんな程度の膨らみに、浴衣越しではありましたが鼻先をすりつけます。