NとY
2018/07/15
はじまりは中学2年の時。
当時、俺は高校受験のために塾に通ってた。
その塾にはクラスが幾つかあって、(自分で言うのも何だけど)成績の良かった俺は「難関私学受験クラス(通称“特進”)」にいた。
特進には、県内各地から集まった生徒が全部で15人。
彼女(Y)もそのうちの一人だった。
背の順でいうと後ろから数えたほうが早いだろう、全体的に細身のすらっとしたシルエット。
さらさらとしてつやのある髪は、少し長めのストレートレイヤー。
おそらく地毛なのだろうが、ほんのりとブラウンが入っていた。
性格はおとなしい。
自分から話題を提供することは(少なくとも俺には)ほとんど無く、クラス中が馬鹿話で盛り上がっている中でも静かに笑っているような…
…Yはそんな女の子だった。
その年の2月14日。
いつも通り授業が終わって帰る準備をしていると、同じく特進の女子(N)に声をかけられた。
「みんなが帰ったら、ちょっと駅まで来てくんない?」
当時、Nに片思いしてた俺は喜んだ。…ところが、はやる気持ちを押さえて駅まで行くと、様子が違った。
そこにはNと、なぜかYも一緒にいた。
N「ほら、来たよ」
Y「…ん」
なるほど理解した。
これって、間接的にNに振られたんだ、と。
なんだか絶望感が一気に押し寄せてきて…その後のことはハッキリとは覚えていない。ただ、気付いた時にはYから渡された白い紙袋を持って歩いていた。
開けてみたのは、その翌日だった。
中にはゲームキューブくらいの白い箱に入った、手作りのハート型したチョコレートケーキ。箱には『好きです。』とだけ書かれたカードが添えられていた。
付き合い始めてからもYは相変わらず静かで、賑やかだった俺とは対照的だった。
こちらから話題を振らなければおとなしいままだわ、特進のみんなからは茶化されるわで、俺はちょっと鬱陶しく思ってたけど、勢いで付き合い始たという負い目もあり、そのままズルズルと過ごしていた。
付き合い始めてから半年が経った中学3年のある日、俺は彼女の家に呼ばれた。
まだキスもしたことのない奥手な彼女が、「明日から1週間、家族みんな居ないんだ…」と言ってきた時は、正直驚いた。
もちろんそれはそういう意味だと思ったし、そういう事に興味もあったが、俺は「ここでしてしまったら、このままズルズルと関係が続く。絶対にだめだ。」と心に留めて家に行った。
いつになくニコニコと楽しそうに振舞う彼女の姿にあてられ、なかなか「帰る」と言い出せず、そのまま彼女の作った晩御飯まで食べてしまった。
時計が19時を示した頃になって、俺はさすがに焦りを感じ、「そろそろ帰る…」と切り出した。
玄関で靴を履いていると、彼女は、
「…いや」
と言って俺の服の裾を引いた。
振り返ると、彼女は真っ赤になって俯いていた。
風呂からあがり2階にあるYの部屋に行くと、電気スタンドの明かりだけが灯る薄暗い中に、タオルを巻いた姿でベッドの縁に座る彼女がいた。
俺が隣に座ると、彼女からキスをしてきた。
どれくらいの時間かは判らないが、何度も何度もキスをした。
彼女の纏うタオルを除けると、予想に反して下着姿の彼女が現れた。どうやら風呂からあがった後に再び着けたようだ。
薄暗くてよくわからなかったが、白か薄いブルーだろう。レースをあしらった、年相応のかわいい下着だった。
俺はブラを外そうとしたが、外し方を知らなかっためにまごついた。すると彼女は俺の手をそっと払い、自分で外した。
思わず息を飲んだ。それは小ぶりながら、透き通るように白く、整っていた。
隣に座る彼女の背中から右手を回し、向こう側のツンとした小さな突起に触れてみた。
それまで無言だった彼女は、かみ殺したように小さく声をあげ、ピクッと反応した。
その声をスイッチに、俺の中で何かがキレた。無我夢中で揉み、舐め、吸った。
「…怖いっ…」
彼女は小さな声でそう言って身をかがめた。
我に返った。
俺「…ごめん。はじめてだから…」
Y「…うん。私もはじめてだから…」
俺「…もう少し…さわっていい…?」
Y「…うん」
俺は彼女にそっとキスをし、そのままベッドに横たえた。そして自分の体を上から重ね、胸を愛撫した。
(といっても、まだまだ拙いものだったが…)
やがて右手を下半身に向かって這わせ、下着に手を入れた。
熱い感触。指先に触れ、濡れた。
そこがそうなることは知ってはいたものの、正直ここまでとは知らず、失禁したのかと思った。
下着に両手をかけると、彼女は少し腰を浮かせた。
抵抗はほとんど無く、スルリと脱げた。
目の前には、なだらかな丘がある。
体毛の薄い体質なのだろう。
そこには、少し濃い産毛といった感じの陰毛が、申し訳程度に生えていた。
俺の知識はエロ本のそれしかなかった。
(この流れは、口でするのか…?)
太股の内側に手をあて、足を開こうとする。
始めは少しの抵抗をみせるも、やがておずおずと開いていった。
親指と親指の間にあるそれは、分泌された彼女の液体によって、ぬらぬらと輝いていた。
モザイクのないそれを見るのは初めてだった。
綺麗だと思った。
それを目の前にすると、もう我慢ができなかった。
もういいか訪ねると、Yは無言で頷いた。
彼女の部分にあてがうも、入り口がよく分からない。
ぬるぬるとした感触に、幾度も滑らせることになった。
そうこうしているうちに突然何かが押し寄せ、果ててしまった。
挿れる前に。
俺「…ごめん。」
Y「…うん。」
情けなかった。
彼女が飛散した白い液体をティッシュで拭う間、気持ちは沈んでいた。
すると、彼女は俺自身にそっと触れてきた。
俺「えっ!?あっ!!?」
Y「…。」
彼女の細い指先に触れ、すぐに元気が戻った。
俺「…」
Y「…」
俺「…いい?」
Y「…おねがい。」
彼女のガイドで、ようやく入り口に導かれた。
ゆっくりと押し進める。
やはり抵抗があったが、最後まで挿れることができた。
圧力がかかり、熱い。
俺「痛い?」
Y「少し…でも、平気…」
もっと大量に出るものだと思っていたが、思っていたより血は出ていなかったようだ。
俺はゆっくりと動き出した。
壁が、絡みつき、そして、熱い。
うまく動けずに、抜けそうになる。
動かすたびに彼女が反応する。
はッはッという荒い息にまぎれ、時折押し殺したような「んっ」という声が漏れる。
どうやらAV女優の喘ぎ声が演技というのは本当のようだ。
目の前の彼女は、口を固く閉じ、声を押し殺している。
「…ふぁぁぁ…」
ふいに彼女が静かに長い息を吐いた。
彼女の中がふっと緩み、一瞬キュッと閉まった。
これが致命傷だった。
何が起きたか、よくわからなかった。
2度目は、中で、果てていた。
(妊娠したらどうしよう…)血の気が引く音を初めて聴いた気がする。
Y「…気持ち、良かった?」
俺「うん、あ、中であの…」
Y「…うん」
彼女は俺のしでかしたミスをティッシュで拭うと、俺の背中に寄り添ってきた。そうしてそのまましばらく経った後、彼女が口を開いた。
「…シャワー浴びてくるね」
薄暗い部屋に1人残された。
セックスしてしまった。しかも中に出してしまった。
俺は、自分の優柔不断さを呪っていた。
こうして、バレンタインのあの日から始まった悪夢は、幕を進めていった。
いくら背伸びをしてみても、中学生なんて所詮はまだまだ子供だ。
俺は責任が怖かった。そしてその責任から逃れたかった。
あんな事があったというのに、あんな事をしてしまったというのに、Yと話すのが気まずくなった俺は、彼女を避けるようになっていた。
そしてあれから数日経ったある日、授業が終わった後で彼女に呼びとめられた。
(ついに来た…)
暗澹とした心持ちで、彼女と近くの公園へ向かった。
並んでベンチに越しかけるも、どう切り出してよいかわからず、しばらく重い沈黙が続いた。
先に沈黙を破ったのは、彼女だった。
Y「…あのね」
俺「…うん」
Y「…大丈夫だった」
俺「え…?」
Y「生理…きたから…」
俺「??」(←その意味がよくわからなかった)
Y「できてなかったってこと」
そう…できてなかった、か。大丈夫だったのか…!
体の力が一気に抜けた。…と同時に、自分でもなんだかよくわからない感情が込み上げてきた。
それは「怒り」に近かったと思う。その溢れる感情の勢いに任せて俺は切り出した。
俺「…なぁ。別れよう?」
Y「…」
俺「俺、もう、前みたいには戻れない…」
Y「……いやだ(泣き出す彼女)」
俺「ごめん…」
彼女はしばらく泣いていた。そして、一言一言紡ぐように言った。
Y「…私は…それでも好き…」
俺「俺もYの事好きだけど、もう無理だよ…」
結局Yとは別れことになった。
一方的で、最悪な別れ方。このことはずっと胸の奥に罪悪感の黒い塊として残ることになった…。
秋になって、俺は塾を辞めた。東京の私立高校に、推薦での入学が決まったためだ。
部活を引退し、学校に毎日通う以外に特にやることの無かった俺は、ダラダラと過ごしていた。
そして、はじまりのあの日からちょうど1年経った、中学3年の2月14日。
俺はその日、学校のクラスの友人達と、卒業旅行と称して今は無きドリームランドへ遊びに行った。
さんざん遊び尽くし、夜になって家に帰ってきた俺に、妹がやけに明るい声で言った。
「にいちゃーん」
「お届け者でーす」
ニコニコと無邪気に微笑む妹の手には、去年と同じ“白い箱”があった。
そして箱には、カードが添えられていた。
『好きです。』